迫能弘は、現代の薪窯焼成を追求している作家です。窯変から炭化や灰釉など幅広い作風から、陶土の特性を活かした表現を試みています。「自然から受けたものを作品に投影したい」という、彼の作陶に観られる象徴的な特性は、どのような周囲の環境にも馴染むような、穏やかな造形と質感にあるといえるでしょう。甲賀市甲南町の古琵琶湖層から採れる、陶土(瓦用土)〈ずりんこ〉に出会ってからは、とくに南蛮風の低火度の、焼締め陶作品の制作に挑戦しています。
迫能弘「焼締め片口形櫛目花器」2018年制作
帰国後〈ずりんこ〉を用いて制作した南蛮風の焼締め作品
〈ずりんこ〉で低火度陶を試みたいと考えていた迫は、台湾(台南芸術大学)でその実践も兼ねて、地元の瓦用土を用いた低火度の焼締め陶にはじめて挑戦しました。しかし、窯詰めした位置の焼成温度が上がり過ぎた影響か、輪花鉢の見込みに向付を入れて窯詰めした双方が溶着。素地は焦げたように黒く、また鉢の口縁部は下方向に大きく反り返り、向付も同様に口が大きく開いてしまいました。(※1)最初の窯の失敗は、普段とは違う窯構造や炎の動き、陶土の特性を充分に把握しきれていなかったことが原因と振り返っています。
迫能弘「試作/焼締め輪花鉢・向付」2017年制作
台南芸術大学の薪窯ではじめて南蛮風の焼締めを試みた試作品 ※1
焼成で歪んでしまった壺を割って原因を調査
迫能弘「焼締め甕コップ」2017年台南芸術大学にて制作
台湾では若い学生たちに囲まれ、制作に打ち込むことができたようです。とくに土づくりから窯焚きまで、大学院生のサポートが得られたので、自分一人では困難なことにも、色々と挑戦することができた、と滞在中の制作を振り返っています。また、市内の海上貿易で栄えた街、安平(あんぴん)にある、17 世紀にオランダ人が築いたゼーランディア城の、崩れた煉瓦造りの城壁の断面(※2)が、印象深かったようです。大学で用いた瓦用土と同じ雰囲気があり、台湾の低火度焼締め陶の歴史を、肌で感じたられたと語っています。
ゼーランディア城(台南市安平区)の崩れた城壁の断面 ※2
迫(中央)と彼をサポートした台南芸術大学の大学院生
《経歴》抜粋 |
★昨年10月に開催された第3回「日本陶磁協会奨励賞」関西展で「奨励賞 京都新聞賞」を受賞された時に迫能弘氏よりコメントいただいております。
その時の様子はコチラ!