キャサリン・サンドナスは、人物とくに女性をモチーフに、その神聖なイメージを原初的造形に表現している作家です。また、宮本ルリ子は、時代とともに移り変わりゆく物質と精神の関係を、独自の造形思考で読み解く作家。二人は17年前に陶芸の森創作研修館で出会い、サンドナスの帰国後も情報交換などの交流を続けていました。協同制作の直接的な契機になったのは、宮本が彼女に近況を知らせるために送った、写真入りのポストカードでした。
キャサリン・サンドナス「多産Ⅰ」2002年陶芸の森創作研修館にて制作
宮本ルリ子「Time Less Rosary」1998年
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*現実と夢・幻想と真実が交錯する時空を超えた旅物語をテーマに、ファインセラミクス製の石ころを数珠に見立てた作品。メッセージが刻印された石ころは、千切れて散る数珠玉のように鑑賞者に持ち去られてゆく。
陶芸の森を退職した後、独立した宮本は作家活動とともに、信楽窯業技術試験場でデザイン研究に従事していました。ポストカードには宮本がデザインの試作を担当した、新素材〈信楽透光土〉製の陶板プレートが印刷されていたのです。それを見たサンドナスは直感的に、自身の考え方を表現する最適な素材と考えたといいます。また、宮本も〈信楽透光土〉に作品制作の素材としての可能性を模索していました。試験場で開発された新素材が、二人の感性を揺さぶり結びつけたことで、協同制作が実現したといえるでしょう。
キャサリン・サンドナス&宮本ルリ子「日本とアメリカ合衆国の協同制作」
2013年陶芸の森創作研修館にて制作
「日本とアメリカ合衆国の協同制作」拡大
暗がりのなかで茫洋と光を放つ、横一列に並ぶ開いたノート。そこには日本とアメリカを巡る関係、両国で起きたさまざまな事象を示す日付が刻印されています。広島や長崎そして福島、またハワイにニューヨークなど、薄く延ばした素地土の層には、それらの〈できごと〉が発生した場所で採取された、土や砂などが混入されています。彼女たちは現地の人々の協力を得て、それらを入手しました。創造と破壊そして生と死。夥しく繰り返されてきた人類と自然の営みが、制作に関わった人々の想いとともに表現されています。
協力者からの手紙と提供された物
*東日本大震災で被災地・福島県いわき市の協力者から提供された海砂(一部)とともに届いた手紙。被災地の当時とその後の様子、また彼女たちのプロジェクトへの想いなどが綴られている。
《経歴》抜粋 ムッティスタジオ(アメリカ・ミネソタ) ビジュアルアーティストとしてアメリカを拠点に個展を開催するともに、国内外の美術館の企画展で作品を発表している 個展を中心に国内外の美術館の企画展で作品を発表する一方で、陶芸の森を拠点に普及啓発活動の作陶指導、講演やレクチャーなどを多数おこなっている |