岩村遠は、太古の土偶や古代の埴輪など〈やきもの〉の呪術的な性格を、現代の造形として追求している作家です。彼の作陶に認められる特性は、親しみのなかにもどこか不気味さを感じさせる表現にあるといえるでしょう。〈Neo Jomon〉シリーズは、そうした特性を象徴する作風のひとつです。刺青のようにカンナ削りの筋目が入れられたキャラクター風の子どもや動物の頭部。そこには神霊が依り憑く形代や、厄除けの藁人形などに共通した世界観が認められます。
岩村遠「〈Neo Jomon〉シリーズ
左から順にHead/Child (Square) /Hat/Falcon/Fever/Child」2019年
ピカソやマティスらの独特の配色と色面構成は、南仏の特有の光が影響していたのでは、という自身の仮説を確認するため、岩村はヴァロリスでの制作を希望しました。温暖な気候と乾燥した空気に、色鮮やかな美しい街並みと風景。空や海また市場や建物など、現地では気の赴くまま、眼にした景観をすべて空間に見立て、滞在中に制作した作品のインスタレーションを試みています。こうした取り組みを通じて、体感した南仏のエッセンスを作品のなかに表現できたことは、大きな収穫であったと滞在制作を振り返っています。
岩村遠「Neo-Jomon: Picasso's Face」2019年A.I.R.ヴァロリスにて制作
(旧市街の路地で撮影)
岩村遠「Neo-Jomon: Green Face (Instalation) 」
2019年A.I.R.ヴァロリスにて制作(ミゼリコルデ礼拝堂にて撮影)
限られた条件と時間のなかで、未知の素材を用いた制作では、思い掛けないアクシデントがつきものです。岩村は滞在中にヴァロリスのピカソ美術館で観た、フクロウ形の水差しをモデルに、作品を滞在中に制作したのですが、焼成中に作品が爆発して底部が欠損するという問題に直面しました。あれこれ欲張り過ぎて時間に余裕がなくなり、ぶっつけ本番で窯焚きに臨んだ結果でした。『底がないなら隠せばいい』という、半ば開き直りに近い正面突破的な打開策から、新しい手法を見い出してゆく貴重な経験になったようです。
ピカソ美術館で観たフクロウ形水差を描いた岩村のスケッチ
岩村遠「Neo-Jomon: Picasso's Bird」2019年A.I.R.ヴァロリスにて制作
《経歴》抜粋 |