山田浩之は作品制作からアート・プロジェクトまで、陶をフィールドに幅広い表現活動を展開している作家です。
彼の表現に認められる特性は時々の陶芸と、自身に関わる多様な環境を柔軟に受容してゆく造形思考にあります。とくにEKWCでの低火度釉と焼成方法の出会いを機に試みはじめたマーブル風の釉彩は、そうした側面を象徴する作風といえるでしょう。また、汚染土壌の土を用いた制作では現代美術との接点を探り、読み解いてゆく視点が認められます。
山田浩之「流紋蓋物」2018年制作
山田浩之「Artificial soil cover」2018年EKWCにて制作
*汚染土壌の土で陶製の〈石ころ〉をつくり、針金で壺に突き刺した作品
皮革工場跡に移転したEKWCの敷地に残る汚染土
山田はオランダでの滞在制作のなかで、釉薬と焼成に関する考え方に一番驚いたようです。日本では素焼(700-800℃)の後、釉薬掛けを経て本焼(1200-1300℃)しますが、現地ではそれ以外にも素焼段階で高温で焼締め、施釉後に素焼より低い温度で本焼する手法が、ごく普通に用いられていたとのこと。当時の山田は宙に浮いたような造形と、マーブル風の釉彩を試みていましたが、上手くゆかず半ば諦めていたといいます。しかし、この焼成方法により、求めていたイメージにより近い表現が可能になりました。
低火度釉をベースに調合した色釉薬のテストピース
2018年EKWCにて焼成
山田浩之「とらとらオクトパス」
2018年EKWCにて制作
山田は滞在中に多くの美術館や博物館を巡りましたが、エンクホイゼンにある地域産業博物館は、とくに印象に残っているようです。地場産業(造船と漁業)の歴史と産物を中心に、竹で編まれた漁具などの民俗資料だけでなく、それに着想を得た現代の造形作品や映像が、<過去と現在><産業と芸術>の関係性を示す、素晴らしい空間であったと回想しています。伝統産業と現代美術が融合したその空間は、幾つものプロジェクトを手掛けてきた彼に、新たな挑戦へと導く重要なメッセージをもたらしたようです。
地域産業博物館の展示風景
現代作家が竹を素材に制作した造形作品
山田浩之(やまだ ひろゆき) 《経歴》抜粋 |