篠原希は、陶土の魅力を引き出す現代の薪窯焼成を追求している作家です。彼の作陶に認められる特性は、「焼成で溶けた土と灰が噛み付き合う」ような、激しい焼肌をみせる窯変にあります。アメリカで制作されたワイルドクレイ・シリーズは、そうしたやきもの像を顕著に示す取り組みといえるでしょう。また、白い化粧土の微妙な濃淡に、茶褐色の素地が解け合う、須恵土を用いた仕事には、彼が理想とする「土の芯から焼けてくる雰囲気」が随所に垣間観られます。
篠原希「窯変大壺」2017年制作
篠原希「須恵土平鉢」2018年制作
*隣町の須恵器窯付近で採取された鉄分の多い陶土で制作。
アメリカの薪窯や陶土について見聞したいと考えていた篠原は、原土の採取から製土そして薪窯を二つ同時に焚く機会を得ました。現地の作家とともにした制作は、彼らが地元の土をどのように捉え、扱っているのかを学ぶ、得難い貴重な体験になったようです。岩肌を想わせる荒々しく力強い面取りを施した一輪挿しや、練らずに原土を叩き固めて塊を刳り貫いた茶碗など…。なかでも、ライルズビル(ノースカロライナ)のワイルドな土の性質を活かした作品には、信楽での普段の仕事とは少し異なる趣が感じられます。
篠原希「ワイルドクレイ一輪挿し」
2017年クラフトスクールUSにて制作
篠原希「ワイルドクレイ引出黒茶碗」
2017年クラフトスクールUSにて制作
採取したばかりのライルズビルの原土(ペンランドにて)
染色家や織物作家など異分野の人々との交流が刺激的な体験になったようです。ハンドルづくりを教えて貰った作家と、木工所で一緒に牛ベラ(成形道具)を制作した体験は、「木工と道具づくりを同時にでき、貴重な経験であった」と話しています。なかには、陶芸を学ぶ物理学者というユニークな人もいて、彼らとの出会いはまったく違う視点から自身の仕事を見つめ直す、重要な契機になりました。帰国後も互いに仕事場を訪問して、地域の人々と一緒に仕事をするなど、相互交流は現在も続いています。
木工所で牛ベラを制作する篠原(左)とネイト氏(ヘイスタックにて)
《経歴》抜粋 |