泉屋博古館「生誕140年記念特別展 木島櫻谷―近代動物画の冒険」で、発表の翌年から所在不明となっていた第4回文展受賞作《かりくら》が、約100年ぶりに公開されます!! 4年前に発見されたこの作品は、損傷がはげしく、約2年にわたる修復を経てこのたび往時の姿を取り戻しました。修復完成を記念して、9月22日には、木島櫻谷旧邸で本作の「里帰り」ともなる修復完成披露説明会を行いました。その様子を前編・中編・後編に分けてお伝えします!
前編では、日本画家・木島櫻谷(このしまおうこく)の人となりについて、中編では、第4回文展に櫻谷が出品した作品《かりくら》がどのように発見され、どのような修復を経て約100年ぶりによみがえったのかをご紹介しました。後編では、第4回文展に櫻谷が出品した作品《かりくら》のみどころと櫻谷作品のなかの位置づけをご紹介いたします。
《かりくら》明治43年(1910)櫻谷文庫
高さ2.5mの大画面に描かれているのは、狩りをする武者を乗せて草原を疾駆する馬の群れ。表題の《かりくら》は“狩り競べ”からきています。
渾身の力で馬を駆ける武士らの表情もさることながら、特に注目していただきたいのが、櫻谷の馬の表現です。
作品の前に立つと、風に乱れなびくススキとともに、右奥から左手前に向かって空を舞う馬が目の前に迫ります。
馬の体は隙なく彩色され、絵具と墨の濃淡で陰影が表現されています。この馬の表現は、櫻谷が生涯徹底した写生、観察によって生まれたものです。
展示会場の様子
櫻谷が残した写生帖は現在約647冊発見されています。“動物画の名手”といわれた櫻谷。本展開催に際して行われた調査で、京都市動物園の年間優待券が発見されました。
年間パスポートを贈られるほど、動物園に写生のために通ったという櫻谷の一面をうかがい知ることができます。
写生帖 明治時代 櫻谷文庫
最後に、第1回から第6回文展までの櫻谷の出品作の変遷をご紹介しましょう。第1回文展出品作《しぐれ》は最高位を受賞、文展出品後に文部省お買い上げとなります。こちらは、伝統的な京都画壇風の水墨を基調とした作品です。第2回文展出品作《勝乎敗乎》は“歴史・人物画”で戦の場面を描いた作品。第3回文展出品作《和楽》では非常に穏やかな京都近郊の農村風景を描いています。第4回文展出品作が約100年ぶりによみがえった幻の大作《かりくら》です。第5回文展では鹿を描いた作品《若葉の山》を出品します。そして第6回展出品作が櫻谷の代表作《寒月》です。
展示会場の様子
「墨での表現に重きを置いた表現から、色彩豊かな表現と奥行きのある画面の制作に取り組んだのが《かりくら》ではないかと思われます。一見モノクロームにみえる《寒月》に多彩な絵具が使われていることに、《かりくら》での取り組みがつながっているのです」と泉屋博古館学芸課長・実方さんは話します。
文展で上位の常連であり、「文展の寵児」とも言われた櫻谷ですが、あまり知られていないのは櫻谷作品を鑑賞できる機会が少なかったからでしょうか。「生誕140年記念特別展 木島櫻谷―近代動物画の冒険」では櫻谷の画業で特に高い評価を得た“動物画”の代表作や未公開作品をご堪能いただけます。
今後も11月11日(土)に開催された講演会・ワークショップの様子や、図録などの展覧会グッズをご紹介します。どうぞお楽しみに!