「今年の秋は櫻谷づくし!」特集vol.4 ~約100年ぶりに公開!木島櫻谷「かりくら」修復完成披露説明会開催レポート 中編~

泉屋博古館「生誕140年記念特別展 木島櫻谷―近代動物画の冒険」で、発表の翌年から所在不明となっていた第4回文展受賞作《かりくら》が、約100年ぶりに公開されます!!  4年前に発見されたこの作品は、損傷がはげしく、約2年にわたる修復を経てこのたび往時の姿を取り戻しました。修復完成を記念して、9月22日に木島櫻谷旧邸で本作の「里帰り」ともなる修復完成披露説明会を行いました。その様子を前編・中編・後編に分けてお伝えします!

中編では、第4回文展に櫻谷が出品した作品《かりくら》がどのように発見され、どのような修復を経て約100年ぶりによみがえったのかをご紹介しましょう。

《かりくら》は、明治43年(1910)11月第4回文展(文部省美術展覧会)に出品され、同展で3等という評価を得ます。その後、明治44年(1911)2月に東京の巽画会、4月にイタリアで開催されていた羅馬万国美術博覧会に出品されました。しかし以後の出品記録は見当たらず、ぱったりと足跡が途絶えてしまいます。櫻谷の三回忌に開催された大回顧展でも出品されず、失われた作品と思われていました。

ところが!! 5年前の2012年12月に行われた櫻谷文庫の調査作業中に、竹竿に丸められた状態で、蔵の隅で存在が確認されます。しかし、装丁もされない絵絹だけの状態でとてもいたみが進んでいました。

《かりくら》発見時の状態
① 絹(絵のベース)の劣化・損傷 絵の描かれた絹がぼろぼろ、いまにも崩れそうなほど脆くなっている
② 絵具の劣化(剥離・欠失)  絵具がぽろぽろとはがれ落ちているところがある
③ 未装丁(裏打ちが無い) で描かれた絹一枚のまま。保護する表装がない状態


(左)オレンジや黄色の絵具が剥落、(右)しわや染み

「発見時あまりにも巨大できちんと広げてみることが出来ず、絹や岩絵具がぼろぼろと落ちてしまいとても触れられない状態でした。小さな画集でしか《かりくら》を見ていなかったので、あまりの大きさに私も当時、《かりくら》だと気づきませんでした。」と泉屋博古館学芸課長の実方さんは発見時の様子を話されます。

その後、住友財団の文化財修復助成を得て、2016年5月に修復着工、2017年9月に修復完成を迎えました。現在、泉屋博古館で開催されている「生誕140年記念特別展 木島櫻谷―近代動物画の冒険」でご覧いただけます!!!

約2年の月日を費やしてよみがえった幻の作品《かりくら》。どのような修復過程を辿ったのか、修復を担当された墨仙堂さんからの説明をご紹介します。

最初に修復前の状態をご覧いただきましょう。この作品は1枚の絹で出来ており、継ぎ目がありません。縦が2.5m、幅が1.8mくらいの作品です。前述の通り、まず破れていたり、穴が空いていたり、絹の劣化がみられました。また絵具の劣化、剥離、剥落と絵の状態が不安定でした。また、今まで裏打ちされた形跡がありませんでした。

修復前

では、修復作業についてご説明しましょう。

最初に絵具の損傷状態を調べ、浮き上がっている部分などに膠の水溶液をそっと染みこませて「剥落止め」という作業を行います。そして絵具をしっかり絵絹に定着させたあと、汚れを取り除く「クリーニング」をします。それは濾過水で絵をほんの少しだけ湿らせ、溶け出した汚れを水分とともに吸水紙に移し取るという方法です。それからしわを伸ばし絵を平滑にするため「水張り」という作業をします。濾過水を噴霧してぴーんと張った状態まで伸ばしていく工程です。

クリーニング直後

次に裏打ちです。裏打ちとは絵絹などの裏面に紙をあてて補強すること。まず美濃紙で第一層目の裏打ち「肌裏打ち」を行います。次に一層目とは異なる奈良・吉野で作られた美栖紙(みすがみ)で二層目の「増裏打ち」をします。これで裏打ちの前半が終了です。

つづいて損傷箇所の補填。画面に空いた穴のかたちと同じ形に補修絹を切って、穴にはめていく作業です。補修絹は新しいものではなく、人工的に劣化させたものを使用します。新しい絹を使うと、まわりとの強度のバランスが悪くなり、またそこから傷みはじめる可能性があるためだそうです。その後、裏側から折れを防ぐ「折れ伏せ入れ」を行っていきます。

補填作業の様子

ここまでくると本紙の修理はほぼ終了。このあとどのような表装が合うのかを決めて、表装作業に入ります。その後「中裏打ち」という作業に進みます。これも先ほどと同じく美栖紙を使用します。そして最後に宇陀紙で4層目の裏打ち「総裏打ち」を行い、十分に乾燥させてから軸等を取り付け、掛軸装に仕上げます。

修復後

技術者の方々による丁寧で細やかな作業を経て、ようやくよみがえった《かりくら》を会場にてじっくりご覧ください!!
次回は、《かりくら》のみどころと櫻谷作品における位置づけをご紹介します。お楽しみに!