第一章より~「古染付葡萄文水指」(魯山人旧蔵)

第一章より~「古染付葡萄文水指」(魯山人旧蔵)

魯山人というと美食家という観点から食の器を紹介されることが多いのですが、今回の展覧会は「昭和陶芸の古典復興」というテーマから北大路魯山人の作品を展観しています。昭和は特に歴史や古典への関心が高まった時代でもあり、やきもの制作においても古典復興に真摯に取り組んだつくり手たちが活躍しました。そこで本展では、魯山人旧蔵品を中心に昭和の陶芸家たちが学んだ古陶磁の名品を併せて展示しています。


書家として創作活動のキャリアをスタートした魯山人は、中国唐代の書家・顔真卿(がんしんけい)(709-789)に憧れ、中国の文物に傾倒していました。中国のものであれば「牢屋でもイイ」とさえ語っていたそうです。そんな魯山人は自らが作陶に携わり始めた頃、主に中国陶磁の写しから着手しました下記画像は中国明代に製作された古染付の鉢で、魯山人が開窯した星岡窯(ほしがおかかま)の附属「古陶磁参考館」に展示されていた名品です。参考館に所蔵されていた古陶磁は、もちろん魯山人の目利きで収集されました。
魯山人旧蔵のこの古染付の鉢は、後に瀬津伊之助を通じて、阪急の創設者であり近代屈指の茶人として知られた小林一三(号:逸翁-いつおう)へと伝わりました。逸翁は、この鉢を水指に見立てて多くの茶会で用いています。逸翁と魯山人は昭和の初め頃に交流があり、昭和8(1933)年正月29日には逸翁邸で催された茶会に魯山人が招かれたことがわかっています。
近代の文化人たちに愛されたこの古染付鉢を今回の展覧会では、逸翁の命名にちなんで「古染付葡萄文水指」として紹介しています。
 


中国・景徳鎮窯
「古染葡萄文水指(こそめつけぶどうもんみずさし)」
明代(17世紀)
逸翁美術館蔵(魯山人旧蔵)
口径20.4cm

古染付とは、明代の天啓年間(1621-27)前後に景徳鎮の民窯で制作された染付磁器の一様式で、青の色合いが明るく、ややラフ筆致で描かれた自由闊達な染付文様、釉薬の透明度が高く、器胎が厚めの白磁、「虫喰い」と呼ばれる釉薬のホツレなどの特徴があります。天啓年間頃は日本の茶人たちが新しく珍しい茶器をもとめて、景徳鎮窯に好みの茶道具を盛んに発注していたことが知られており、古染付も日本からの注文を受けて焼成された一群であると考えられています。


魯山人による箱書き
「古染付ブドウ鉢」「魯山人」
逸翁美術館蔵

魯山人も、古染付には熱い眼差しを注いおり、昭和6(1931)年に古染付の名品を選び収録した図版本『古染付百品集』を著し、この古染付鉢を掲載しています。後の昭和16年に魯山人はこの古染付の鉢に学び「染付葡萄文鉢」を制作しました。しかし多くの魯山人の作品に見られるような大胆なアレンジは、あまり感じ取れません。それだけにこの古染付鉢に尊い思いを感じていたのかもしれません。


 北大路魯山人「染付葡萄文鉢」
昭和16(1941)年制作
世田谷美術館(塩田コレクション)蔵
口径21.0cm

※1


特に古染付は、巡回展会場の中でも陶芸の森会場のみの出品です。現在は別々の美術館で所蔵されているこの2作品を、久しぶりに対面させ、並べて展示しています。

二つの作品を見比べながら、古染付の名品に注がれた魯山人の眼差しを感じ取っていただきたいと思います。
お見逃しなく!!