キスリング展監修・村上哲さん解説③原点はセザンヌ―《果物のある静物》

キスリング展監修・村上哲さん解説③原点はセザンヌ―《果物のある静物》


《果物のある静物》1914年 油彩・カンヴァス 65×81cm
プティ・パレ美術館/近代美術財団、ジュネーヴ
©Petit Palais/Art Modern Foundation,Genève

若い頃、キスリングが憧れた画家は、ポスト印象派のセザンヌであった。随想のなかでキスリングは「1910年にパリに着いたとき、私は、セザンヌのような絵を描きたかった」と回顧しているが、1910年代の斬新な空間にはその影響が窺える。自然を円筒体、球体、円錐体へと還元するセザンヌの造形思考にヒントを得て、キスリングは幾何学的なフォルムを有効に活用するようになり、単純化された簡潔な画面作りに心を砕いている。セザンヌ体験を通して、伝統的な遠近法から解き放たれ、独自のスタイルを切り開いたのである。そして生涯を通じて、キスリングは画業の節目でしばしば原点であるセザンヌへの回帰を果たしながら、自らの絵画表現を見つめ直している。

キスリング KISLING  1891-1953


キスリング 1925年 ©KISLING ARCHIVES

ポーランドの古都クラクフの裕福なユダヤ系の家に生まれる。1910年パリに出て、1912年からピカソやブラックらと交友、キュビスムに感化される。1913年以降はモンパルナスで、モディリアーニやパスキン、藤田嗣治(レオナール・フジタ)らと親交を結んだ。1910年代の末、華麗な色彩と滑らかな画肌を駆使した独自の画風を確立、哀愁の漂う作品は人気を博した。第二次大戦時はナチス・ドイツの迫害から逃れて渡米。1946年フランスに帰国し、パリと南フランスを行き来しながら活躍した。

執筆:
村上 哲(むらかみ・さとし)

アート・キュレーション代表。1957年、熊本県出身。東京藝術大学卒業。
熊本県立美術館の学芸課長を経て2018年から現職。海外展の企画統括・監修に携わる。
専門は比較芸術学、エコール・ド・パリ研究、ミュゼオロジー(美術館運営学)。

次回は「赤い長椅子の裸婦」をご紹介します。


「キスリング展 エコール・ド・パリの巨匠」は10月25日(日)まで美術館「えき」KYOTOで開催中です。

企画・監修:マイテ・ヴァレス=ブレッド(フランス/ポール・ヴァレリー美術館館長、文化財保存主任監督官)
統括・監修:村上 哲(アート・キュレーション代表、チーフ・エグゼクティヴ・キュレーター)
企画協力:株式会社ブレーントラスト