裏表のない緋色
穴窯焼成は炎が直接器物に掛かるため、前面に窯変が生じやすい。
本作では焚口と煙突前のダンパで風量を調整、また棚板の最上段に窯詰めするなど、炎が均等に循環するように工夫して、清新な裏表のない緋色を得ている。
信楽皆具〈紫香楽宮〉
令和元
水指:高20.1×胴径20.0
勺立:高18.3×胴径10.0
建水:高14.0×胴径13.9
蓋置:高5.6×胴径6.8
個人蔵
皆具を天平時代の旧蹟・甲賀寺の伽藍に見立てた作品。
陶郷信楽は聖武天皇が東大寺に先立ち、紫香楽宮の造営とともに廬舎那仏の造立を試みた万葉ゆかりの地である。
穏やかな緋色に柔らかな稜線をもつ、清廉なその姿は凜として気高く美しい。
そこには甲賀寺から紫香楽宮を臨みつつ、世の平和と人々の幸せを願う想いが表現されている。
作者は信楽を代表する陶家、古来窯上田直方の現当主。信楽の茶陶は通常、皆具として用いられることはなく作例は数少ない。
本作はそれを承知の上で、「信楽でしか表現できない皆具の姿を観たい」という、素直な想いから制作されたものだ。
つくり手の立場を超えた愛陶家としての、純真な作者の人物像が垣間見えよう。
上田直方(六代) UEDA, Naokata VI 1957 福岡県八女市立花町生まれ 1975 国立久留米工業高等専門学校を中退、丹波焼の伝統工芸士大上強氏に師事 1979 信楽・窯元宗陶苑で登窯焼成に従事 1982 五代上田直方の養子となる 1983 京都府陶工訓練校成型科修了 1984 滋賀県立窯業試験場釉薬科修了、古賀茶道文化研究所で古賀健藏氏に指導を受ける 2006 韓国済州で窯焼成を指導 2010 六代上田直方を襲名 |