生誕130年記念 小野竹喬のすべて その5(最終回)
第二章「至純の時代 1939-1979」のみどころ
◆奥の細道句抄絵(初公開の作品とともに)
《奥の細道句抄絵》シリーズは、松尾芭蕉の『おくのほそ道』に詠まれた俳句を絵画化した作品です。竹喬はこの構想を早くから持っていましたが、86才という高齢で句抄絵の制作に取り組むことを決め、東北へ取材に行きました。竹喬が取材することにこだわったのは、実際の景色に接した時の感動が制作の上で必要と考えたためでした。
今回の展覧会では、現在知られている京都国立近代美術館所蔵の奥の細道句抄絵シリーズ10作品以外に、同構図の作品と習作を初公開し、竹喬の句抄絵の世界を堪能できる内容となっています。
1976年《奥の細道句抄絵 あかあかと日は難面もあきの風》京都国立近代美術館
松尾芭蕉が金沢を訪れた時、会うのを楽しみにしていた弟子の一笑が若くして亡くなったことを知ります。画題の句は、金沢付近の道中に詠んだもので、秋なのにあかあかとした陽が照りつける中、ふと秋風が吹いてきた、という情景描写です。芭蕉の金沢でのできごとを考えると、どこか寂しさがつのります。
1976年《奥の細道句抄絵 あかあかと日は難面もあきの風(習作)》笠岡市立竹喬美術館
初公開の習作のうちの一つ。空の色などが完成作品と異なり、竹喬が様々な試みを繰り返して完成作品に辿り着いたことが分かります。
1976年《奥の細道句抄絵 象潟や雨に西施がねぶの花》京都国立近代美術館
象潟は芭蕉が訪れた時は湾に島々が点在していましたが、1804年の鳥海山の噴火で隆起して現在は陸地となり、竹喬は海の部分は松島を参考にして描きました。芭蕉が中国の美女西施に例えた、象潟の煙る景色の中に合歓の花が可憐に咲いています。
1976年《奥の細道句抄絵 象潟や雨に西施がねぶの花(衝立)》個人蔵
京都国立近代美術館所蔵の出品作は紙に描かれていますが、こちらは絹に描かれています。絹に墨を主体とした水墨風とすることで、静謐さを生み出しており、広がりのある表現となっています。
1976年 最上川をスケッチする竹喬(撮影:池田弘)
竹喬以前にも『おくのほそ道』の絵画化は試みられていますが、竹喬のシリーズは芭蕉と同じ視点に立ち、単に情景を描くのではなく、句の持つ普遍的な情感を竹喬なりに昇華して表した、芭蕉と竹喬の感性が響き合う、寂然とした世界となっています。
生誕130年記念 小野竹喬のすべて 第二章「至純の時代 1939-1979」
会期:9月7日(土)~11月24日(日) |
笠岡市立竹喬美術館「生誕130年記念 小野竹喬のすべて」展 その1
笠岡市立竹喬美術館「生誕130年記念 小野竹喬のすべて」展 その2