「Sanrizuka-Then and Now-」会場の様子
現在、京都市内各所で展開されているKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2018のメイン会場のひとつ、堀川御池ギャラリー1階の「Sanrizuka-Then and Now-」の会場を訪ね、京都市山科区生まれの写真家の森田具海(もりた ともみ)氏にお話をうかがいました。
水俣と足尾銅山という公害が発生した地域を歩き、現在の風景を写し取った「2つの川」で昨年のKG+(注1)アワードを受賞し、注目される森田氏。
今回は、2年前に撮影・発表した、1960年代後半に成田空港建設反対闘争の場となった千葉県・三里塚を大判カメラで再度捉えた新作を展示中です。
森田具海 氏
ー京都のご出身なのですね?
ー はい。1994年、山科生まれです。京都造形芸術大学の現代美術・写真コース(2017年度より写真・映像コース)に入学しました。
もともと絵を描いていて、現代美術に興味がありこの学科を選びました。
ー 写真に興味を持たれたのは入学されてからですか?
ー そうですね。
1回生のときに大判カメラと銀塩プリントの技法を学ぶ機会があり、さらに2回生のときに「京都を写真で再発見する」というフィールドワークの授業があり、そこで写真に興味を持つようになりました。撮影する人によって、とらえる京都の風景が全く違うんですよね。
クラスメイトと1年間に渡り、みんなが撮った作品を並べては鑑賞とプレゼンテーションを繰り返して意見を交わしました。今の作品にもその時の体験が活きています。
ー 昨年、日本の公害問題の中でも象徴的な水俣川と渡良瀬川をテーマにした作品を発表されましたが、今回、三里塚の地域に注目されたきっかけは何でしょうか?
ー 実は「2つの川」の前に三里塚には行っていて、そのときはモノクロで撮影しました。
その頃、台湾や香港で発生したそれぞれのデモ活動をテレビやインターネットの報道を通して追っていました。
若い学生たちがこれまで生きてきた時間、そしてこれからの未来が、自分たちの国やその歴史とつながっているということ、こうした現実から目をそらさない彼らの姿を見て、戦後70年前から風化していく日本の出来事と、人々の記憶がどう残っているのかに関心を持ち始めていきました。
三里塚闘争は重大な社会問題として昔は注目されていたのですが、現在では日本からも忘れ去られたまま反対運動と新たな工事が続いている状況です。
空港を使用して日本と世界を行き来することが増える一方で、当時の記憶を知ったり意識したりすることが難しくなっている気がします。
そこでターミナルを降りて滑走路沿いを歩くことから考えたいと思いました。自分が生まれる前の時代の記憶を実感したかったのです。
再度この地に挑む機会を得た今回、あえてカラーでの撮影を選択しました。モノクロ写真は情報量が少ない分、カラーに比べると思い描いていた通りに撮りやすいです。
しかし、三里塚という場所の背景を考えたとき、むしろこれまでのイメージを壊すことにチャレンジして、その場所に対する「想像力」を超えることができないかと考えました。
カラーで表現することでモノクロ写真特有の「あいまいさ」や「懐かしさ」を排除し、忘れられようとしている過去を掘り起こし、「現在」の風景として見せたかったのです。
「天神峰、成田、千葉」2017年 ©Tomomi Morita
ー 実際に現場に行くと、やはり行く前に持っていた印象とは大きく変わりましたか?
ー はい。成田空港の「空と大地の歴史館」で、空港ができる前と後の写真を見て衝撃を受けました。
そこで最初に持っていたイメージは崩れ、大きな鉄板のような滑走路に沿って歩くだけではなく、それによって埋もれた風景や痕跡を見つけたいと思いました。
三里塚の土地に生きた人と、そこに今来たばかりの自分が歩くのでは、水俣の埋め立て地の時も同じですが、記憶がまったく違い、思い出すものも当然違ってきます。
現在の風景を見て、過去を見るのはむつかしいかもしれません。でも、写真は見る人の心を揺さぶる力があるメディアだと思っています。
人と土地、人と人以外の生命がどう関わっているのか。そして、それらがどのように背中合わせで存在して、あるいは引き裂かれているのか。どうすればその記憶が今に蘇るのか。
それを写真で考え、人と社会のつながりをとらえなおそうと試みています。
ただ、そのために三里塚の闘争を単なる人と人の争いとして見せるような、強いイメージをあえて作りたいとは思いません。
「三里塚」と標記せずに、展覧会タイトルを「Sanrizuka-Then and Now-」と英題にしたのもその一環です。
三里塚へ訪れて見つけた現地のさくらの木、フェンスを飲み込むように伸びる笹、耕されたあとの土など、歴史や資料が語らない現在の風景の複雑さを通して、まだそこに行ったことのない人々にとっても身近な存在として描くことを意識しています。
(後編に続く)
注1 KG+ これから活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的に、2013年よりスタートしたKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭と連携したアートフェスティバル。
◆会 場 堀川御池ギャラリー 1F(京都市中京区押小油路町238-1)
・会 期 開催中 5月13日(日)まで
・時 間 午前11時~午後7時
・休館日 月曜日
・料 金 一般600円、大学・高校・専門生500円 ※中学生以下無料
・問合せ KYOTOGRAPHIE事務局 電話075-708-7108
★KYOTOGRAPHIEその他プログラムについては公式HPをご確認ください。
HP https://www.kyotographie.jp/
[お知らせ]
5月5日(土)より、ドキュメンタリー映画「三里塚のイカロス」が京都シネマで公開されます。
公開初日の15時15分の回の上映終了後に代島治彦監督の舞台挨拶があり、特別ゲストとして森田具海氏も登壇。
ぜひこの機会に映画にもご注目ください。
詳細は京都シネマHPにてご確認ください→http://www.kyotocinema.jp/index.php
KYOTOGRAPHIEについて
2013年以来毎年春に京都で開催され、回を重ねるごとに好評を博し、これまでに約38万人の来場者を迎えました。
今回も15のメインプログラムのほか関連プログラム、イベントも多数開催されます。
詳細はコチラ
そのほかプログラムのご案内
メインプログラム
「ローレン・グリーンフィールド GENERATION WEALTH」(京都新聞ビル印刷工場跡(B1F))
「ジャン=ポール・グード So Far So Goude」(京都文化博物館)
関連プログラム
「蜷川実花写真展 UTAGE 京都花街の夢 KYOTO DREAMS of KAGAI」(美術館「えき」KYOTO)
「永遠の少年、ラルティーグ―写真は魔法だ!―」(細見美術館)
立命館大学国際平和ミュージアム2018年度春季特別展「ヤズディの祈り―林典子写真展― 」(立命館大学国際平和ミュージアム)