ロシアでの思い出 ~当代15代・樂吉左衞門さんギャラリートークより~

ロシアでの思い出 ~当代15代・樂吉左衞門さんギャラリートークより~

ロシアにはプーシキン美術館のように、ワークショップを開催できる教室を併設している美術館や博物館があり、展示を見るだけではなく、実践の場としても機能しています。また、子どもたちが先生とともに美術を鑑賞するグループの姿も良く目にします。あれこれと感想や意見を述べ合っている光景です。なかなか日本では見られない光景ですね。アート をつぶさに感じ取り、学べる機会が、子どもたちに開かれています。とても大切なことですね。世界を知り、また自国の芸術文化を自然に学び感じ取ること。それは同時に、自国の歴史を学び、郷土への誇りや愛する心を自然にはぐくむことです。言葉や道徳教育で上から愛国心を植え付けることとは異なる人間的な喜び、幸せに満ちています。そうして文化を通して感じ取ることで自然と根付いていくものなのだと改めて感じました。

さて、ロシアはもとより、ヨーロッパでは代々繋いでいくという価値観は無いようです。工房の親方は代を重ねるごとに替わっていきます。むしろ家族で受け繋いでいくことはマイナスだと考えられているのです。家系を守ることに専念してしまい、肝心な創造精神がおざなりになってしまうと考えられているのですね。ロシアで「樂-茶碗の中の宇宙」展をご覧いただいた方々は、歴代がそれぞれの時代の中で、その時代を吸収しながら必死で生き、自分なりの作陶世界を切り開いていることに驚かれていたようでした。

また、ロシアではお茶の文化がとても広がっていることに驚きました。中国茶や抹茶、煎茶など、さまざまなお茶の文化が日常に根付いていました。裏千家の支部がモスクワにあり、大宗匠が寄贈されたお茶室で、ロシアの方が着物を着てお点前を披露してくださいました。それが素晴らしく見事なお点前なのです。ただ、そこには日本人の姿は一人もありません。ロシアの方だけでお茶を楽しまれるほど、現地ではお茶の文化が根付いていました。