優秀賞受賞作の「松明・余煙」。幻想的な雰囲気と煙の力強さを感じさせるこの作品の着想から完成までの道のりを、作者の沈楠(シン・ナン)さんに伺いました。
作品のモチーフは、通っている京都市立芸術大の裏手にある「九社(くしゃ)神社」の境内から。
写生のために神社に足を運んだ際、周囲を木々が覆う境内の中の焚火のくぼみが目に入りました。
そこを見た時に頭の中に浮かんだのが、実際には存在しない「煙」のイメージです。
今見ている煙のない「現在」の状態と、煙のような何かが発生していたであろう「過去」、そして何かが起こりそうな「未来」の状態が同時に浮かび、その気配を同じ画面の中に表現したいと思い、今回の作品を制作しました。
九社神社の境内(沈さん提供)
私にとって目に見える世界を色で大まかに分類すると、大陸の「茶色」、光の「白」、森の「緑」、空・海の「青」の4色になります。
そのため、作品を制作する際は、茶色・白・緑・青の4色を中心に制作します。
本作の制作には、全体で4~5カ月ほどかかりました。
半月ほど、神社に何度も足を運び写生をし、素描にも1週間~2週間ほどかけました。
実際のスケッチ(沈さん提供)
スケッチの時には、くぼみの部分が強調されていますが、完成作品ではくぼみを抽象化しています。
焚火の跡を明確に描写すると、煙の勢いが弱く見えると思ったためです。
一番表現したいのは、風による煙の流動感。そのため、煙の描写を加筆しました。
今回の作品では、煙を周囲の環境になじませるような場面構成で、幻想的な風景を描きたいという思いがありました。
制作期間が長期間にわたり、「画面の要素に何かが足りない」と途中で行き詰まる期間がありましたが、その間、煙の青の部分を書き足し、画面のイメージも大きく変更しながら、画面全体のバランスを調整し、完成させました。
今回の作品から、詩情や安らぎを感じてもらえたらと思います。
<作品展情報> 「木と話す 石に聴く」 Exhibition of two artists : Nan Shen & Tianyu Zheng
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