「はしっこ」を見つめて―岸本佐知子さんギャラリートーク報告①

美術館「えき」KYOTOで開幕した、「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」
初日の9月21日(土)は、ショーン・タン作品の翻訳を多く手がける翻訳家・岸本佐知子さんをお招きし、ギャラリートークを開催しました!
当日はショーン・タンの日本語版を出版している河出書房新社の担当編集者・田中優子さんも一緒にお話しいただきました。



彼を代表する作品のひとつ、『アライバル』。会場の最初は、その原画が展示されています。
この物語は当初コミカルでシュールなイメージだったのが、何度も発想の転換があって生まれたといいます。
細かいコマ割りで表現する手法は、日本の漫画『子連れ狼』から取り入れられたのだとか!
想定外の作品名の登場に、会場も驚きの声に包まれました。

『アライバル』より 2004~2006年 ⒸShaun Tan
タンはこの作品で自身をモデルにした写真を撮り、それを絵におこすことで丁寧にイメージを作り上げました。
それゆえにか、主人公はなんとなくタンに似ています。
この作品のテーマは「移民」。『アライバル』以外でも、タンの作品に多く登場するテーマです。

タンの父は中国系で、シンガポールからオーストラリアに移住しました。
彼が育った街、パースは中国系の移民が多く、移民であるがゆえの人々の苦労を多く見てきました。
彼の「社会のはしっこ」で生きるものへの温かい目線が、あらゆる作品に取り入れられていると岸本さんはいいます。

 

続いて紹介するのは、タンが初めて絵と文章を手掛けた絵本『ロスト・シング』。
海辺で変な生き物を拾った主人公がともに居場所を探す物語です。

この作品も「はしっこ」に注目してみると、タンの遊び心があちこちに散りばめられているそうです。
当たり前のことをさも名言かのように綴ったメッセージが背景の看板に書かれていたり、ページそのものがアメリカの具象画家エドワード・ホッパーの作品のパロディであったり。
この本の最後のページにはパロディを詫びるかのような文があるそうですが、それもよく探さないと見つけられない細かさ。
岸本さんもこれには「どこまで訳すべきなのか悩んだ」と苦労を語りました。
 


②につづきます。