「蘭島閣美術館コレクション 京の日本画家が描く情景」の関連イベントとして、 講演会「駆け足で見る!大正・昭和期の京都の日本画」が開催されました。
講師は京都文化博物館学芸員・植田彩芳子さんです。
当日は多くの人が植田先生のお話を聞きに訪れ、立ち見の人が出るほどの大盛況でした。
講演会のテーマは、近代京都(大正・昭和期)の日本画史。
京都画壇の大家・竹内栖鳳以降から戦後にかけての京都の日本画にまつわる流れをお話してくださいました。
講演の概要を前後編の二回に分けてご紹介します。後編では、昭和期以降のトピックスについて取り上げます。
駆け足で見る!大正・昭和期の京都の日本画 <主なトピックスと関連画家>
〇昭和期~現在までの京都画壇〇
◆帝展改組と新文展
帝展では、中村大三郎、堂本印象、福田平八郎、徳岡神泉、宇田荻邨、金島桂華らが華やかな作品を発表し、活躍しました。
しかし昭和10年、当時の松田文部大臣が、院展などの在野の美術団体の引き入れ・恒久的な無監査制度を盛り込んだ“帝展改組案”を発表、“帝展騒動”とよばれる混乱が起きます。
翌年の昭和11年には、竹内栖鳳が「各団体を官展に合流するのは美術の発展を阻害するものである」と「新帝展に対する意見」を新聞で発表。
帝展不出品の画家が続出、栖鳳の建白書に賛成の意見書を送るなど、帝展への反対運動が高まりました。
その後、昭和12年に帝国美術院は廃止、新たに「帝国芸術院」を創立し、第1回新文展の開催によって落ち着きを取り戻します。
>>関連人物
中村大三郎、堂本印象、福田平八郎、徳岡神泉、宇田荻邨、金島桂華
◆戦時下の京都画壇
しかし、京都画壇においても次第に戦争の空気が漂い始めます。
昭和12年に日本自由画壇が国防費献納展を京都市美術館で開催。
また青甲社(西山翠嶂の画塾)73名が作品を陸軍傷病兵慰問のために寄贈、その翌年の昭和13年には画家の従軍が始まるなど、国家統制が行われるようになりました。
戦争が進むにつれて、画材は配給制となり、少なくない数の画家が炭鉱や工場に動員されました。
昭和16年、戦時体制下での「職域奉公」と物資の配給を目的として、京都在住の画家650名により「京都日本画家連盟」が結成。
昭和20年には、京都画壇の中心画家30名余りが舞鶴海軍軍需部の要請で「海軍軍需美術研究所」を結成させられ、福田平八郎を指導主任として射撃の標的などを描かされたそうです。
>>関連人物 小早川秋聲
◆戦後の京都の動き
戦時下では風船爆弾工場となっていた京都市美術館でしたが、終戦から1か月後の昭和20年9月15日には早くも館蔵品による現代美術展を開催。
また11月には全国公募の京展も開催します。
文部省もいち早く官展復活を目指して、「日本美術展(日展)」の開催を決定。昭和21年春に「第一回日展」を開きました。
▼「創造美術」の結成から「創画会」へ
昭和23年、上村松篁・秋野不矩ら京都画壇の画家7名とと福田豊四郎・吉岡堅二ら東京の画家6名が協議して、「創造美術」という団体を結成。
「創造美術」は「世界性に立脚する日本美術の創造」をうたい、反日展を掲げるものでした。
>>創造美術 結成メンバー
上村松篁、奥村厚一、向井久万、沢宏靭、秋野不矩、広田多津、菊池隆志
山本丘人、福田豊四郎、吉岡堅二、橋本明治、加藤栄三、高橋周桑
その後、「創造美術」は「新制作協会日本画部」と名を変えたのち、昭和49年に「創画会」となってからも現在まで活動を続けています。
>>創画会 関連人物
石本正、麻田鷹司、上原卓、西村昭二郎、塩見仁朗、烏頭尾精、小嶋悠司、上村淳之、川端健生、坂口麻沙子、橋田二朗、佐々木弘、土手朋英、中尾壽男
▼パンリアル協会
「創造美術」結成と同じ昭和23年、より尖鋭で前衛的な活動に取り組む「パンリアル協会」結成。
>>関連人物
三上誠、大野俶嵩、下村良之介
◆その後の京都画壇
その後の京都画壇は、主に日展を舞台として山口華楊、麻田辨自、猪原大華、池田遙邨らがそれぞれの個性を開花。
他にも数々の画家が活躍し、今の京都画壇を形作っています。
>>戦後の日展で活躍した画家
山口華楊、福田平八郎、徳岡神泉、小野竹喬、堂本印象、池田遙邨、宇田荻邨
西山英雄、濱田観、麻田辨自、猪原大華、三輪晁勢、堂本元次、下保昭、岩澤重夫、三輪良平
入江酉一郎、稲田和正、池田道夫、浜田昇児、三谷青子、岩倉寿、山崎隆夫、三輪晃久、加藤美代三、坂根克介、高越甚、村居正之
▼横の会
昭和58年、東京・京都の30代~40代前半の若手日本画家が、所属団体や画塾、会派を超えて集ったグループ。10回を限りとして活動を行いました。
>>関連人物
竹内浩一、堀泰明、米谷清和、渡辺信喜、中島千波、林功、伊藤彬、大野俊明、佐々木裕久、中野嘉之、仲山計介、林潤一、平松礼二、村田茂樹、青山亘幹、斎藤隆、佐藤良助、箱崎睦昌、畠中光享
▼NEXT
「横の会」解散5年後の平成10年に京都画壇の実力派によって結成されたグループ。
こちらも同じく10回限りの活動とし、平成19年に解散。
>>関連人物
磯部茂樹、伊藤はるみ、猪熊佳子、岩崎絵里、太田利花、大沼憲昭、大野俊明、下保昭、川島睦郎、川嶋渉、久保嶺爾、黒光茂明、西嶋豊彦、西田眞人、西野陽一、箱崎睦昌、畠中光享、林潤一、広森守、北斗一守、堀泰明、村居正之、森田りえ子、八木幾朗、安田育代、渡辺信喜
以上が大正・昭和期を中心にした、明治晩期~今に至るまでの京都画壇の主なトピックスとまつわる画家でした。
また、講演会資料として植田先生力作の「大正・昭和前期 京都日本画壇 フクザツ人物相関図」が配布されました。
京都画壇の主要画家のつながりが丁寧に記されたプリントです。それぞれの画家の特徴も一言で添えられていて、とても分かりやすいです。
(画像クリックで拡大)
過去の著名な画家から、今現役で活躍する画家までの流れがよくわかる講演でした。
植田先生、ありがとうございました。
京都府立堂本印象美術館で開催中の「蘭島閣美術館コレクション 京の日本画家が描く情景」にも、
講演会に登場した画家の作品が多数展示中。
9月30日の会期終了まで日も迫っています。お見逃しのないよう、お越しください。