友治の技法

友治の技法

連載第3回「槙⿅蒔絵螺鈿料紙箱・硯箱」にも施されている「友治上げ(ゆうじあげ)」は、現代にも伝わる技法ですが、永田友治からその名がきていると知らない作家は多いかもしれません。
この他にも、友治は独自の技法を産み出してきました。作品と共に紹介していきます。



宝舟蒔絵盃 1口

盃に描かれた2羽の鶴。300年経過したとは思えない光沢のある銀白色の輝きを放つ1羽と、真鍮が少し錆びたような色合いの1羽。積載品や舟を含め、厚みがあり立体的な技法で描かれている。

この「いつまでの輝く銀白色」の秘密が、友治の技法その1「合金粉」(ごうきんふん)です。
銀粉だけでは酸化して黒く変色してしまいますが、友治は”銀、硫黄、錫、亜鉛”を混ぜた合金粉を使用することにより、「錆びない銀粉」を作り出しました。
この様に、貴金属である金や銀の使用を極力低減して、銅・錫・亜鉛・鉛などを調合したさまざまな合金を使用し、それまでの漆芸の世界にはなかった色合いや風合いを表現しました。

そして、友治の特徴がよく出ている作品として、


藤娘蒔絵盃 1口


盃の身内に大津絵であろうか藤娘が描かれ、娘が背負う藤の花は“ぼってり”とした肉付けが認められる。全体は青漆の刷毛目塗で仕上げられいる。

前出の「宝船蒔絵盃」同様、この“ボッテリ”とした厚みのある風合いが、友治の技法その2「友治あげ」(ゆうじあげ)です。
従来の肉上げ(蒔絵を盛り上げる技法)は研磨して形を整えるなど大変複雑な作業工程ですが、友治は錫粉を用いることにより、一度に厚みのある肉上げを可能としました。

「青漆(せいしつ)」・「刷毛目塗(はけめぬり)」も、友治の特徴的な技法です。
さまざまな色漆を使用しグラデーションをつけるなど友治独特の世界を表現し、その中でも友治グリーンともいえる「青漆」は永田友治作品の大きな魅力のひとつでしょう。
そして、もともと武具などに使用されていた刷毛目塗を友治は装飾技法のひとつとして多用しました。これは、傷がつきにくい上、塗り重ねの工程を短縮させる為ともいえます。


友治技法の集大成といえる作品が、


槙鹿蒔絵菓子重 1合


総体を合金粉の梨子地(なしじ)とし、槙の樹と鹿の輪郭は友治上げにより盛り上げ、色の違う二種の金を使う。青漆も明暗二種あり斑紋は錫で表す。身のイッカケ部には錫粉を蒔く

友治作品として最も有名な「槙鹿蒔絵料紙箱・硯箱」とその意匠は似ていますが、材料や友治上げの厚みが大きく異なり、友治晩年の作品と思われます。
合金粉の多用、槙の樹、鹿の輪郭の丸味の帯びた友治上げ、蓋裏の朝日と雲は垂直に立ち上げた友治上げ、金粉の様に見える梨子地は錫と亜鉛の合金粉。
と友治の技法がつまった作品と言えます。


見た目の新しさ、斬新さも表現できる技法であると同時に、全てがコストダウンにつながっている友治の技法。
享保の改革により金銀粉箔に関する各種の禁止令により、苦境に追い込まれた蒔絵師たち。
その逆境をバネに「合金粉」「友治上げ」「色漆」「刷毛目塗」といった技法を生み出した友治のバイタリティ。
光琳の名を受け継いだ後、社会や購買層の変化に対応して光琳流をより進化させようとする友治の気概が感じられます。


展覧会も残すところあとわずか。お見逃しなく!!