カセた焼肌の質感
伝世する信楽の焼締め壺のなかには、仏塔や墓に納められたものがある。
作者はそうした〈神聖な器物〉には共通して、白くカセた質感を求めて焼成されていることに気付く。
以来今日まで10 数年その質感の表現を追求している。
□□ー□□(うつろ)
令和元
高65.0×口径15.2
×胴径46.2×底径15.8
個人蔵
和紙の微かな揺らめきとともに、変幻自在に多彩な表情をつくりだす壺。ベールに包まれた空間がもたらすその影像は、“流動的に変化する対象”への関心を喚起してゆく。
見え隠れするその端正なその姿は、真理を求め思索する修行僧や哲学者を想わせる。
それは信楽の焼締め陶の本質を探求する、作者自身にほかならない。
信楽壺について作者は、「本来は人ではなく、神仏に向けてつくられたもの」という。
ぼやけた風合いとカセた質感をもつ本作は、その意識を体現したものだ。
仕組みがもたらす〈遊び〉や〈おかしみ〉を交えつつ、観者を時空を超えた〈神聖な器物〉のイメージへと誘う。
その軽妙なアプローチに、作者独特の現代的思考が認められる。
谷 穹 TANI, Q 1977 滋賀県甲賀市信楽町生まれ 2000 成安造形大学立体造形クラス卒業 -彫刻家中ハシ克シゲ氏のアシスタントとして国内外の展覧会に同行 2002 北村寿三氏に轆轤を中心に作陶技術を学ぶ 2003 滋賀県立陶芸の森創作研修館スタジオアーティスト 2007 信楽に双胴式穴窯を築窯-'12 単室式穴窯を築窯、'15イッテコイ窯を築窯 2014 大学美術館を活用した美術工芸分野新人アーティスト育成プロジェクトに参加 |