「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
10月のオススメはこちら!
臆病な男と強気な女の果てしない追いかけっこを追って、摩訶不思議な冒険へ。
『熱波』や、6時間半という超大作となった『アラビアン・ナイト』3部作で知られる現代のポルトガル映画界を代表する鬼才映画監督のひとり、ミゲル・ゴメス監督。
4年の歳月をかけて完成させた最新作『グランドツアー』は、2024年カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しました。
幻想と現実、ドキュメンタリーとフィクションの境界を軽やかに越えるスタイルを貫いてきたミゲル・ゴメス監督は、最新作でも過去と現在、リアリティとファンタジーを巧みに混ぜ合わせ、多くのズレを描くことで、世界とはじめて出会うような驚きの旅の過程を描き出します。
物語のはじまりは、1918年、ビルマのラングーン。
大英帝国の公務員エドワードは、ロンドンから船の長旅を経て到着する婚約者モリーを待っていました。
しかし、花婿の衣装を着て花束を抱えた状態になっても、“なんとか結婚を遅らせられないものか”と思案し、モリーが港を降り立つ直前に、彼は思いあまってシンガポール行きの船に飛び乗ってしまいます。
そこからは、バンコク、サイゴン、マニラ、大阪、上海、重慶と、逃げるエドワードと追うモリーの果てしないイタチごっこが始まって……。
前半はエドワードが辿る旅を、後半はモリーがエドワードを追って辿る旅を描き出し、あと少しのところで二人は出会いそびれます。
そして、ミゲル・ゴメス監督が描く旅の模様は、さすがは映像の魔術師と呼ばれるだけあって、一風変わっています。
1920年代に起こる物語のモノローグ、その背景にはコロナ禍に晒された現代の世界の様子が映し出されるのです。
出会いそびれてしまうことや映像とモノローグのズレは、まさに未知の世界へ旅をしたときの感覚に近いものでした。
未知を目の前にしたときに感じる圧倒的な感動と、どこまでいっても異邦人であることの限界、それによって掴んだとおもった“何か”が手の中をスルスルとすり抜けていくようなもどかしい状態。
それがふたりの追いかけっこを追った本作全体に漂っているのです。
京都シネマでもロングランとなった『私たちが光と想うすべて』のパヤル・カパーリヤー監督も影響を受けたと語っているミゲル・ゴメス監督。
『グランドツアー』の夢幻的な魔術的空間、その映像によるストーリーテリングは『私たちが光と想うすべて』にも共通する美しさがあります。2作を見比べてみるのも楽しいかもしれません。
執筆:川添結生(京都シネマ)
10月10日(金)公開
グランドツアー
(原題)Grand Tour
2024/ポルトガル、他/129分
監督:ミゲル・ゴメス
出演:ンサロ・ワディントン、クリスティーナ・アルファイアテ、クラウディオ・ダ・シルヴァ、ラン=ケー・トラン
©2024 – Uma Pedra No Sapato – Vivo film – Shellac Sud – Cinéma Defacto
【上映スケジュール】
詳細は京都シネマの公式ホームページにてご確認下さい。
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