「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
7月のオススメ作品はこちら!
稀代のゴシック作家シャーリイ・ジャクスンにチャネリングする魔術的な映画。
巨匠スティーヴン・キングの『シャイニング』にも影響を与えた作家シャーリイ・ジャクスン。
近年では、動画配信サイトNetflixオリジナルで製作されたドラマシリーズ「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」の原作者としても知られています。
ジャクスンの作品が描くのは、目に見える亡霊たちではなく、家父長制のイデオロギーに抑圧された個人の心のなかにはびこる恐怖という心象風景。
そしてこの作家の心象風景にチャネリングしたスーザン・カリフ・メリルの伝記小説を原作にした映画『Shirley シャーリイ』が公開!
「ニューヨーカー」誌に発表した短編「くじ」が一大センセーションを巻き起こしたあと、長編小説に取り組んでいたシャーリイが痛みと死を携えた初期傑作『絞首人』を書き上げるまでの期間がフィクションとして描かれます。
1948年、短編「くじ」を発表後、大スランプ中でベッドからも起き上がることができないシャーリイの状況をなんとか変えようと(というか、荒れ果てた家をなんとか維持したい)夫で大学教授のスタンリーが、助手のフレッドと妻ローズを居候させることを決めます。
シャーリイは赤の他人が家にいることを嫌い、ローズに強く当たり、ひどい扱いをするものの、ローズの中に、執筆のインスピレーションを見出していきます。
ローズはローズでシャーリイのカリスマ性に魅入られ、次第にふたりのあいだに奇妙な関係が芽生えていきますが…。
シャーリイという人物の複雑さを体現するように、映画自体も複雑です。
ジャクスンの小説世界に迷い込んだかのように、幻想と現実の世界を自由自在に行き来する映像と起伏の激しい予測不可能な作家像は、肥大化する自己の深淵を見せつけられ、つかのま彼女の心理世界を疑似体験させてくれます。
小説『絞首人』はポーラというある女子大学生が失踪した実在の事件に着想をえた小説です。
映画内でもポーラという少女がなぜ大学の寮から姿を消したのか、ポーラの気持ちを想像することで、シャーリイとローズは、秘密を共有し、親密さを深めていきます。
大学勤めでほとんど家に帰ってこない男たちを尻目に、“家”に縛り付けられた女たちは、想像力によってポーラという少女(や、ほかにも世界中にいる「気づいてほしい」と思っている女の子たち)を救おうとする。
それは、女として生きていくことが残酷である男権的な社会で生きるシャーリイやローズにとっても必要なことだったのだろうと想像します。
エリザベス・モスが体現するシャーリイ・ジャクスンの魔女像が魅力的。
奇妙でゾッとすると同時に、彼女の毒っ気を帯びた社会への眼差しに魅了されてしまう一作です。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
7/5公開 『Shirley シャーリイ』
(原題)Shirley
PG12 /2019/米/107分
監督:ジョセフィン・デッカー
出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、ローガン・ラーマン、オデッサ・ヤング
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■作品公式サイト https://senlisfilms.jp/shirley/
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