【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 129】京都シネマSTAFFの今月のオススメ『悪は存在しない』

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
5月のオススメ作品はこちら!

美しさと優しさ、そして暴力性が偏在する、濱口竜介の魔術的寓話。

『ドライブ・マイ・カー』から3年。いま世界で最も注目される監督の一人である濱口竜介監督と音楽家の石橋英子がふたたびタッグを組んで製作された『悪は存在しない』が公開されます。
本作誕生のきっかけは、石橋英子が濱口監督へ映像制作のオファーをしたことだったそう。
石橋英子のライブ用サイレント映像「GIFT」をもとに『悪は存在しない』が作られました。
2023年に行われた第80回ヴェネチア国際映画祭では〈銀獅子賞(審査員グランプリ)〉を受賞。
カンヌ映画祭、ベルリン映画祭のいわゆる3大映画祭のグランドスラムを果たし、アカデミー賞を入れると黒澤明以来の快挙を成し遂げました。
美しい神話のようなラストを迎える本作、世界から驚きと困惑とともに絶賛された新たな傑作です。

舞台は、長野県水挽町。
自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向にあります。
開拓世代3世の巧とその娘の花の暮らしは、水を汲み、薪を割るような自然に囲まれた慎ましいもの。
しかし、ある日、この町にグランピング場を作る計画が持ち上がったことで生活を脅かされることになります。
グランピング場の建設は、コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものでしたが、その計画は、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画で……。

穏やかな時間が流れる場所で自然とともに暮らす巧と東京からやってきた芸能事務所の黛と高橋。
グランピング場建設説明会で、高圧的で対話をしようとしなかったふたりは、巧から「ちゃんと話そう」と説得され、無理がある計画を進めたい会社と納得できない町の人々とのあいだに立とうとするようになります。
しかし、映画全編でちりばめられたちいさなズレが積み重なり、日常に裂け目をつくっていく。驚くほど美しく撮られた自然や人々の姿が、あっというまに別の世界へ導かれ、突然崖の上から落とされたようなラストが待ち受けます。


かつて、濱口監督は【東北記録映画三部作】(酒井耕との共作)において、そこに生きる人々の対話を撮ることで、自然のなかで翻弄される人間の姿を記録し、人と人のあいだにある関係性の修復を描き出しましたが、本作はとくに【東北記録映画三部作】と地続きのように感じます。
理解しきれない自然の美しさと暴力性、そして理解しきれない他者との関係性の美しさと、どうしても孕んでしまう暴力性を考察した圧倒的な寓話です。
石橋英子の音楽とともに、ぜひ物語に身を託して楽しんでください。


 



5月3日公開
『悪は存在しない』

2023/日本/106分
監督:濱口竜介
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥居雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典、田村康二郎
©2023 NEOPA / Fictice

詳細・上映スケジュールは京都シネマの公式ホームページにてご確認下さい
 



京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。

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