【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 115】京都シネマSTAFFの今月のオススメ『枯れ葉』

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 115】京都シネマSTAFFの今月のオススメ『枯れ葉』

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
12月のオススメ作品はこちら!

 

引 退 撤 回!
最高のラブストーリーとともに、カウリスマキが帰ってくる!

野暮ったい酔いどれ詩人が、絶望にあらがって底に沈みこんだ美しさを発見する。
無表情なユーモアが詩をつくり、あっけらかんとした笑いが、しみったれた日常を映画に変える。
そんな最高の映画監督、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキが引退を宣言したのは、6年前の2017年でした。
これが最後になるかもしれないと涙を呑んで『希望のかなた』を観ながら、『ル・アーヴルの靴磨き』とあわせて移民三部作を作るという噂はなんだったんだ、とか、小津のことを思い出し、小津が死んだのは60歳だったから、カウリスマキも引退するのか?などなど考えていたことを最近思い出したりしています。

そして、2023年!カウリスマキ監督、あっけらかんと復帰してくれました。
今回は、プロレタリアート三部作(『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』)に続く労働者階級を主人公にした4作目
ハリウッド風(といってもいつも通り、いやそれ以上にカウリスマキ節炸裂)のラブロマンスです。寒空の下、灰色のヘルシンキの街角で、孤独で臆病な男女が出会い、「さあ、もう一度!」と愛を信じてみる、世界でいちばんささやかな愛の物語です。


大型スーパーで働くアンサと酒に溺れながらなんとか働いているホラッパ
ラジオからはロシアによるウクライナ侵攻のニュースが絶え間なく流れ続け、暗澹たる気持ちが沸き上がります。
そんな日々のなか、孤独を抱えたふたりはある夜、カラオケバーで出会い、名前も知らないまま惹かれ合います。
ある日、アンサは廃棄された商品を持ち帰っていることがばれてスーパーをクビになり、新しい職場を見つけないといけないことになりますが、たまたま新しい職場にホラッパが飲みにやってきて…。


ふたりの目線がわずかばかりすれ違い、表情筋を1mmしか動かさないで惹かれ合ったことを描き出すのはやはりカウリスマキの手腕の見せ所。
しかし、不運な偶然と現実の過酷さが、ふたりを幸福から遠ざけます。
ギリギリの生活で、楽しみすら忘れてしまったふたりの絶望するしかない日常。
そのうえ、遠くの国では戦争がたえず起こっている。
“愛があったって何になる?ささやかな幸せなんて何になる?”そんなニヒルな声がどこからともなく聞こえてきそうな日常で、「それでも!」と高らかに宣言し、しぶとく、美しい希望のかなたにむかって歩いていこう。


ぎこちなく佇むヒロインのぎこちない笑顔、そして夕暮れに向かって歩いていくふたりと一匹の姿に、愛し、歌い、犬とともにいれば、この世界はすこし「変わる」のだという希望を信じてみようという気になります。
とっつきにくい人物描写も、すこしずれたテンポも、異常にカッコイイ音楽の合わせ方も、最初は違和感でもふと気づくと病みつきになる、唯一無二のカウリスマキ・ワールドとの再会を祝って。
ぜひ劇場にておたのしみください!
 

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



12/29(金)公開
『枯れ葉』(原題)Kuolleet Lehdet
2023/フィンランド、独/81分

監督:アキ・カウリスマキ
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ
©Sputnik


詳細・上映スケジュールは京都シネマの公式ホームページにてご確認下さい



京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。

問い合わせ:075-353-4723

HP:https://www.kyotocinema.jp/