「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
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大 い な る 自 由
Great Freedom
不条理な迫害の歴史の中で、愛を求め続けた男の20余年にもわたる物語。
ドイツと同性愛。このふたつからわたしが思い浮かべられるのは、2017年に同性婚の合法化が実現したこと、ナチス政権下で収容所に送られた中に男性同性愛者がいたこととその時に着用を強制されたピンク・トライアングルは、戦後、ヘイトのシンボルから抵抗のシンボルへと変化したこと。映画『ベント/堕ちた饗宴』(97年)で描かれた収容所内の愛の物語のこと。しかし、戦後ドイツでなにがあったのかを知ったのは『大いなる自由』を観てからでした。今回紹介する『大いなる自由』では、終戦後すぐの1945年、東西が分裂後、保守的な政権下で取り締まりが厳しかった1957年、そして刑罰の理由となった刑法175条*改正が報じられた1968年の3つの時代を背景に、ある一人の男の愛の物語として描き出します。
1968年。ハッテン場の男子トイレにて刹那的な性行為をする姿を隠しカメラで撮られた男、ハンス。その後、刑務所に入る手順も慣れた手つきでこなす彼は、男性同性愛を禁じる刑法175条によって収監されます。その手慣れた様子から、同性愛者であることを理由に繰り返し投獄されていることがわかります。そして刑務所で、彼が1945年に収監されたときに相部屋だったヴィクトールとも再会。ヴィクトールは、ハンスと出会った当初、同房の服役囚が「175条違反者」であることを知り、嫌悪し遠ざけようとしますが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことに気づいて…。
物語は、どれだけ非人道的な法に踏みにじられ、まわりから拒絶されながらも、愛をあきらめないハンスの意志と、対照的にホモフォビアを内面化しているヴィクトールが長い年月のあいだでハンスのその矜持を認め、寄り添い、互いを尊重する関係へと変化していく様子を3つの時代を行き来しながら丁寧に描き出していきます。直線的ではない時間軸で重層的に作られた本作、ハンスとヴィクトールの変化は、残酷に流れる時間の重さ、それによって受けた傷、人間の脆さとたくましさ、あらゆるものを浮かびあがらせます。鮮烈に描きこまれる暴力の痕と、暴力によって尊厳を傷つけられる男の話、それでも、最後の最後に残るこの映画への印象は、圧倒的な「優しさ」とあたたかな「体温」でした。多くを語らない寡黙な作品ながら、雄弁。静かなパワーにみちあふれた傑作。暗闇を恐れない演出は、ぜひ劇場で見てもらいたいです。
*ドイツ刑法175条(1871~1994)
1871年に制定された男性同性愛を禁じる刑法。ナチ期に厳罰化され、戦後東西ドイツでそのまま引き継がれた。西ドイツでは1969年に21歳以上の男性同性愛は非犯罪化され、1994年にようやく撤廃された。約120年間に14万もの人が処罰されたといわれる。
※刑法175条は男性のみを対象としており、女性同性愛はその存在さえ否定されたことから違法と明記されていなかった。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
『大いなる自由』
原題:Große Freiheit 英題:Great Freedom
R15+/2021年/オーストリア、ドイツ/116分
監督・脚本:セバスティアン・マイゼ
共同脚本:トーマス・ライダー
撮影監督:クリステル・フルニエ
編集:ジョアナ・スクリンツィ
音楽:ニルス・ペッター・モルヴェル、ペーター・ブロッツマン
出演:フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレン ほか
配給:Bunkamura
©2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions
■公式サイト https://greatfreedom.jp/
■公式Twitter @greatfreedomjp
■公式Instagram @greatfreedomjp
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