「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
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スープとイデオロギー
思想や価値観がちがっても、いっしょにごはんを食べよう。
『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』など、朝鮮半島と日本の悲劇的な歴史のうねりを生きる在日コリアン家族の肖像を親密なタッチで写しつづけてきたヤン ヨンヒ監督の『スープとイデオロギー』を京都シネマで再上映!
今回はオモニ(母親)の生を通して、歴史のうねりと、新たに芽生えた希望を描き出します。
朝鮮総連の活動家だった両親を持つヤン監督は、帰還事業で北朝鮮に3人の息子を送り出した両親を理解できなかったといいます。
なぜ両親はかたくなに北を信じ続けたのだろう。
そんなとき、婚約者でのちに夫となるカオルさんを紹介されたオモニは4時間かけて、スープを煮込む。
そしてそれを食べたカオルさんは「思想が違ってもいっしょにごはんを食べよう」と、3人で食卓を囲むようになります。
すると、オモニからヤン監督へ重たい歴史の過去―済州島4・3事件の陰惨な経験―が語られるように…。
これまで多くの映画ファンを魅了してきた、あの〈家族の物語〉が、まったくあらたな様相をおびて浮かび上がります。
最初は緊張感をはらむ母娘の関係が、オモニの人生をたぐりよせていく過程で、だんだんと変化していく様子は、共感できなくても、すべてを完全にはわからなくても、他者を理解しようと、違いを横断しようとする思いそのもの。
違いを乗り越えるとか、線を飛び越えるとかではなく、物語を引き継ぎ、みずから語り手になるとは、違いを横断することなのだろうと思います。
認知症によってだんだんと遠ざかっていくオモニの記憶のかけらを、ヤン監督は物語る。
この映画には、オモニの感情も、ヤン監督の感情も、ごちゃまぜになってスープのなかに溶け込んでいくようです。
過去から連なる家族の歴史を縦糸にすると、横糸は、新しい家族。
2009年に亡くなったアボジ(父親)は、ヨンヒの結婚相手は日本人とアメリカ人だけは許さないと言い残していましたが、監督は、12歳年下の日本人男性カオルさんを婚約者としてオモニに紹介します。
そんなカオルさんを、4時間以上かけて煮込まれ、トロットロになったソウルフード・参鶏湯で歓迎するオモニ。
一番、感動したのは、オモニのスープが、カオルさんに受け継がれること。
北朝鮮の指導者の肖像がかかる部屋でミッキーマウスのTシャツを着てニコニコするカオルさんの笑顔がまぶしい。
必見の一作です!
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
1/20(金)公開
『スープとイデオロギー』
2021/韓、日/118分
監督:ヤン ヨンヒ
©PLACE TO BE, Yang Yonghi
【上映スケジュール】
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