「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
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サハラのカフェのマリカ
サハラ砂漠にポツンと一軒家。雑貨屋オーナーおばさんと交差する人生について。
北アフリカにある世界最大のサハラ砂漠。不毛な土地、からからに乾ききった大地、広大さ。それでも幻想的な世界を想像させる“砂漠”は、いつもどこか魅惑的に思えてしまいます。
今回紹介する『サハラのカフェのマリカ』は、地中海沿いの古都アルジェから砂漠のオアシス都市タランラセットを結ぶ国道1号線沿いにあるカフェを営むマリカの日常を追いかけたドキュメンタリー作品です。
女主人マリカは、ほとんどの営業時間中に客が来ることのない店内で、愛猫ミミと2匹の犬と時間を過ごします。
たまに、トラックの運転手や旅人がやってくるとコーヒーやおやつを提供して、他愛もない世間話に興じる。
マリカと鉄格子の窓を使って刑務所ごっこに興じる常連客、楽器を手に踊り出す楽団員、近くの資本主義の脅威の話題が出たと思ったら、嫌な客も。
そして次第に彼女は略奪や差別など自分の人生を語り出します。そんなマリカを否定も肯定もせずただただ、ゆっくりと見つめる作品です。
ほとんど色のない砂漠のなかで、ただおばあさんの日常を映しているだけなのに驚くほどおもしろい。
ハッセン・フェルハーニ監督が言ったこの作品についての言葉――「逆説的なロードムービー」というのが言い得て妙だとおもいます。
白い土壁の長方形のちいさな建物から、カメラが動くことはほとんどありません。つまり定点観測的な映画です。
でも、マリカのちいさな雑貨店には、さまざまなところからやってきたさまざまなバックグラウンドをもつ人々が、自分の人生やなやみごとをちょっとだけ置いていきます。少しだけ人々の人生が交差する。
必要以上の愛想もなければ、無理のない対応をするマリカの佇まいは、「ここにいてもいい」という気にさせられます。
マリカの「ちいさな王国」のちいさな窓から見える世界は豊かで、砂たちは不毛で変わらないと思っていたのにずっと見ていると移ろっていく。
どこにも向かわないのに、どこかに連れて行ってもらえるような不思議な魅力のある映画なのです。澄んだ空気と澄んだ夕日、そしてマリカ。移動なしの新しいロードムービー。
国境沿いらしいサウンドスケープがこれまた秀逸な作品なので、ぜひとも劇場でご覧ください。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
10/14(金)公開
『サハラのカフェのマリカ』
(原題)143 Rue du Désert
2019/アルジェリア、フランス、カタール/104分
監督:ハッセン・フェルハーニ
© 143 rue du désert Hassen Ferhani Centrale Électrique -Allers Retours Films
【上映スケジュール】
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