【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 72】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 72】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
6月のオススメ作品はこちら!

 さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について

嵐の前の不気味な静けさをたたえた、青年ファビアンの惑いの日々。

現代のベルリン、ハイデルベルガー・プラッツ駅をゆるやかに移動するカメラ。
世紀末の建築に囲まれて、リュックサックを背負った現代の人びとの後ろ姿を追い越し、階段を上がっていくといつの間にか、ナチス党の張り紙が目に留まる。
その不気味な移動ショットによって、私たちは現代から1931年のベルリンへと導かれます。
このオープニングからは、映画の原作となったエーリヒ・ケストナーの1931年の小説『ファビアン あるモラリストの物語』で描かれたベルリンの姿を2022年の現代と重ね合わせようとする意図がはっきりと感じられます。
経済恐慌、ナチスの権力掌握前夜、退廃的で不安定なベルリンで、絶望とともに生きる若者ファビアンは、いったいどこに向かうのでしょう。

ベルリン1931年。ファビアン、32歳。
作家を志してドレスデンからベルリンへやってきたものの、日中はタバコ会社のコピーライターとして働き、日が暮れると裕福な親友ラブーデとふらふら遊び歩く日々。
ある日、ファビアンはコルネリアという女性と出会い、瞬く間に恋に落ちる。
しかし、戦争、インフレ、失業。
不安定で不寛容な時代に引き裂かれるように、ファビアンとコルネリアもすれ違っていく……。

原作は、『飛ぶ教室』など児童文学の大家として知られるエーリヒ・ケストナーによる小説『ファビアン あるモラリストの物語』。
人生に冷めながらもハートと知性を持つ一人の男ファビアンを通して、ナチス台頭前夜の時代と社会を痛烈に批判します。
1933年のヒトラー政権成立直後に焚書となったものの、現代まで生き延び、20世紀ドイツ文学の名作として愛され続けています。
映画では、古い記録映画やスーパー8ミリで撮られたざらつく映像のコラージュ、荒々しく不安な音楽、ぐるぐると回るカメラワークなど、足場がぐらつくような浮遊感を感じさせ、軽妙なアイロニーとリリカルな語り口を持つ原作の面白さを見事に映像に昇華しています。
時代に冷めた目線を送りながらも、運命の女性と出会い恋に落ちて希望を感じ、しかし、また絶望を発見し、それでも希望を見出そうとうろたえる。
その姿は、現代を映したゆがんだ鏡のようです。
道路に埋め込まれた「つまずきの石」*など未来の痕跡が映り込んでいることに気づいてハッとさせられました。
上映時間178分が、あっという間。必見の一作です。

*つまづきの石:1993年にケルン在住の彫刻家グンダー・デムニッヒ氏が始めたプロジェクト。10cm四方の真鍮プレートに、名前・生まれた場所、亡くなった年と場所などが刻まれている。
ナチズムの歴史を風化させないための取り組みのひとつで、その人物が収容所に移送される前に最後に住んでいた家の前に埋め込まれている。

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



6/17(金)公開
『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』
(原題)Fabian – Going to the Dogs
PG12/2021/独/178分
監督:ドミニク・グラフ
出演:トム・シリング、ザスキア・ローゼンダール、アルブレヒト・シューフ
© Hanno Lentz / Lupa Film  

【上映スケジュール】

※上映スケジュールは京都シネマHPにてご確認ください


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