【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 59】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「世界で一番美しい少年」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 59】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「世界で一番美しい少年」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
12月のオススメ作品はこちら!

 

“世界で一番美しい少年”の栄光と破滅をたどるドキュメンタリー。

2019年、世界中で大ヒットしたアリ・アスター監督の『ミッドサマー』。
本編が終わり、エンドロールに映し出されたひとつの名前に驚いた人も多いのではないでしょうか。
劇中、長い白髪と髭をたずさえた仙人のような風貌の老人が、グロテスクな死を迎える。
その老人を演じた役者の名前は、50年前、映画史に残る伝説の映画『ベニスに死す』の美少年タジオを演じた15歳の男の子と同じ名前だったからです。
彼の名前はビョルン・アンドレセン。
『世界で一番美しい少年』は、映画『ベニスに死す』を皮切りに狂ってしまった人生を振り返っていくドキュメンタリーです。

 

アラン・ドロンやマルチェロ・マストロヤンニ、ヘルムート・バーガーと美青年俳優をミューズにしてきたヴィスコンティ監督は、「手に入れようとした途端に死に繋がる絶対的な美」を体現する“タッジオ”役を血眼になって探していました。
そして訪れたスウェーデン。
大規模オーディションにやってきたアンドレセンを一目見て、彼をタジオ役に採用します。
撮影中は、ひと夏のクールな仕事の様相を呈していたという『ベニスに死す』ですが、公開されるやいなや、ヴィスコンティ監督をはじめ、大人たちによって彼は愛玩のように扱われ、連れまわされ、“搾取”されていました。
父はおらず、母は他界、祖母に育てられた彼に、世界を教えてくれるのは彼を利用しようとする大人たち…。
映画では、『ベニスに死す』以前のプライベートなホームビデオ映像が使用されているほか、当時の“狂乱”がいかに現在の彼の暮らしに影響を及ぼしてしまったのか、そして、かつて身を置いた都市を再訪し、新しい一歩へと踏み出そうとするアンドレセンの現在のすがたを映し出します。

『ベニスに死す』は、療養のためベニスにやってきた老作曲家アシェンバッハが、ホテルで遭遇した少年に心酔し、挙げ句の果てには自分を死にいらたしめるという美に取り憑かれた男の破滅の物語でした。
恋焦がれたアシェンバッハの目の代わりとなるカメラワークは、次第にアシェンバッハへの共感を促し、老いを恐れる男の心の内と哀れになっていく姿に観客自身を重ね合わさせるという素晴らしい一作です。
しかし、本作では、『ベニスに死す』オーディションでのヴィスコンティの舐めるような視線やカンヌのインタビュー中に所有物を見せびらかすかのような扱いを受けるシーンがつづき、あまりにもショックです。
アイコン、イメージ、ファンタジーとして消費され、彼が失い、そして手に入れたくても入らなかったもの、人々の視線に晒されて青年期を失った彼の物語にいま耳を傾けることは、『ベニスに死す』に心酔した映画ファンにとってなくてはならない機会なのではないでしょうか。

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



12/17(金)公開
世界で一番美しい少年
(原題)The Most Beautiful Boy in the World
2021/スウェーデン/98分
監督:クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ
©Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ADF/ARTE, Jonas Gardell Produktion 2021

※上映スケジュールは京都シネマHPをご確認ください


京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。
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