「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
8月のオススメ作品はこちら!
ホロコーストに加担したノルウェーの罪と、翻弄される家族の運命を描く。
戦後75年を経て、戦争体験者の経験をいかに継承していくのかという問題が日本でも世界でも議論されています。
日本では、「被爆体験伝承者」の育成事業などが行われ、ものごとを多面的にとらえなおし戦争経験者ではないからこそ、語ることができることを模索しているといいます。
京都シネマでも、7月・8月は戦争やホロコーストについての映画を多く上映。
2014年に初公開されて以来、毎年上映を重ねている塚本晋也監督の『野火』の上映や戦争にまつわるドキュメンタリー、ホロコーストにまつわる作品の上映が決まっています。
今回はそんななかから、ホロコーストに関わったノルウェーのユダヤ人一斉強制移送について描かれた『ホロコーストの罪人』を紹介します。
第二次世界大戦中、ノルウェーを代表するボクサーのチャールズ・ブラウデは、ガールフレンドのラグンヒルと盛大な結婚パーティーを開き、ブラウデ家ともども、幸せな日々が続くように見えました。
しかし、1940年4月、ナチス・ドイツはオスロに侵攻。
ブラウデ家の長女は、いちはやくスウェーデンへと避難しましたが、両親と3人の兄弟はノルウェーにとどまることを決めます。
次第にユダヤ人への取り締まりは強まっていき、1942年10月、ノルウェーのユダヤ人男性が一斉逮捕され、厳しい管理下に置かれた収容所へ送られることに。男性たちの帰りを待つ母とラグンヒル。
そして、1942年11月、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制移送されることに。
そこには、アウシュヴィッツへ向かう船“ドナウ号”が待機していて…。
とても重たい映画です。
本作では、実在する家族に焦点をあてて書かれたマルテ・ミシュレのノンフィクションを原作に、ブラウデ家の悲劇的な運命の視点と、その裏で動いていた秘密警察クヌート・ロッドの視点ふたつを軸に動いていきます。
ブラウデ家の幸福な日々が、あまりにも幸福なだけに、次第に忍び寄る影と、その後起きる理不尽な仕打ち(劇中「歴史がお前たちをここ(収容所)に連れてきた」と発せられるシーンが。)に、ほんとうに怒りすら湧いてきます。
しかし、2012年、ノルウェーの当時のストルテンベルグ首相が「虐殺はナチスの仕業だが、ユダヤ人の強制連行はノルウェーにおいてノルウェー人が行ったことである」と公式に謝罪を述べています。
そして、2015年にノルウェーから強制送還された国内最後の生存者が亡くなったあと、2017年にはソルベルグ首相が改めて謝罪を発表、「ホロコーストの目撃者が亡くなった今、子どもたち、将来の世代にこの出来事を伝えなければならない」と伝えました。
ナチス・ドイツに侵攻されたという抑圧の被害者であったと同時に、ユダヤ人に対して、加害者でもあったこと。
その多面性を認め、国民がどのように戦争を記憶し、「国民の記憶」として次世代に共有できるのか。この映画は、戦争の犠牲となった人々の人生について思いを馳せると同時に、自分たちの国の戦争についての向き合い方についても問い直したくなる作品です。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
「ホロコーストの罪人」
8/27公開 PG12 (原題)Den største forbrytelsen
2020/ノルウェー/126分
監督:エイリーク・スヴェンソン
出演:ヤーコブ・オフテブロ、クリスティン・クヤトゥ・ソープ、シルエ・ストルスティン、ビーヤ・ハルヴォルセン、ミカリス・コウトソグイアナキス
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