「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
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グンダーマン 優しき裏切り者の歌
スパイだった“東ドイツのボブ・ディラン”、その真実とは。分断された国に生きた人物を鮮やかに描きだす。
現代史における大事件のひとつであるベルリンの壁崩壊から約30年。
ナチスドイツの独裁、敗戦、ソ連の占領を経て誕生し、わずか40年で消滅した東ドイツにおいて、心から音楽を愛し、理想的な社会を築くためには体制への批判もいとわないゆえに危険人物とも捉えられていた希有な炭鉱労働者、そして秘密警察機関「シュタージ」のスパイでもあり、“東ドイツのボブ・ディラン”という異名を持つシンガーソングライター、ゲアハルト・グンダーマンについての物語『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』が公開されます。
映画化着想から10年を要した本作は、東西統一30周年を控えた2018年にドイツで公開され、大ヒットしました。翌年には権威のあるドイツ映画賞で作品賞や監督賞を含む6部門で最優秀賞を受賞した注目作です。
昼間は褐炭採掘場でパワーショベルを運転するゲアハルト・グンダーマンことグンディは、ベルリンの壁が崩壊し、東ドイツが消滅したあともシンガーソングライターとしてカリスマ的な人気を博していました。
しかし、人には言えない過去を抱えていました。
かつて「シュタージ」の非公式協力者として友人たちを監視・報告していたのです。
そんなある日、かつてシュタージに協力した著名人たちが次々と告発されていることを知ったグンディは、自分自身もシュタージの監視対象だったことを友人から告げられます。
そして驚きと失望に苛まれながらも自分がやるべきことは何なのかに気付いていき…。
本作は、東西統一後の1992年を起点に、統一前の1970年代~80年代という2つの時代行き来しながら、心から愛する音楽と友人の妻となった幼なじみコニーへの想い、政治、仕事というさまざまな人生の面において、彼がどういう人物だったのかを浮き彫りにしていくと同時に、家族さえも監視することを強いられた東ドイツの闇、そして予期せぬ国家崩壊によって翻弄された人々を照らし出していきます。
この映画では東ドイツの闇を暴き出しますが、携わった人々を糾弾するものではありません。
監督であるアンドレアス・ドレーゼンは、加害者でもあり被害者でもあったグンディの人生を感情豊かに、愛情深く、丹念に描いていくのです。
生涯、労働者でありつづけた彼が、パワーショベルの操縦席で録音していく詩、そして月夜の灯りに照らされて浮かび上がる巨大な重機のカットは、圧倒的。
なによりも矛盾と葛藤に実直に向き合ったグンディの歌は、哀しくも美しく、現代のわたしたちに迫ってくるものがあります。
今は亡き東ドイツという複雑で特殊な運命をたどった国に生きた人々の内面的真実を伝えるとともに、音楽映画としてもすばらしい一作です。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」
(原題)Gundermann
6/4(金)公開 2018/独/128分
監督:アンドレアス・ドレーゼン
出演:アレクサンダー・シェーア、アンナ・ウンターベルガー
©2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions – und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg
※上映スケジュールは京都シネマHPをご確認ください
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