「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
今回は特別編として特にイチオシの一作をご紹介!
混迷の時代を生きる現代人の意識をゆさぶる新しいライブ映画!
映画監督マイク・ミルズが自身の少年時代を投影した愛すべき映画『20センチュリー・ウーマン』で、主人公ジェイミーは、同居人で写真家のアビーからラディカル・フェミニズムとパンクを学びますが、彼のお気に入りはトーキング・ヘッズでした。
80年代、労働者階級のセックス・ピストルズらと比べるとアーティスティックな存在で、一部では頭でっかちなインテリとも捉えられていましたトーキング・ヘッズ。
ジェイミーも「ART FAG!(アート気取りの軟弱野郎!)」と罵倒されてしまいますが、その軟弱さを受け入れてART FAGであることを肯定するすばらしくチャーミングな映画でした。
気取りつつも聡明で、若者の思想を代弁してきたトーキング・ヘッズといえば、『羊たちの沈黙』で米アカデミー賞監督賞を受賞したジョナサン・デミが手掛けた20世紀を代表するライブ映画『ストップ・メイキング・センス』でしょうか。
セットすら組まれていない簡素なステージの上で、バンドの設立から成長までを巧みに構成し、今なお爆音映画祭などでも上映が行われている伝説のライブ映画といえるでしょう。
そんなトーキング・ヘッズのフロントマンであったデイヴィッド・バーンが、今回『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督と手を組み、『ストップ・メイキング・センス』を更新する新しいライブ映画『アメリカン・ユートピア』を作り上げました。
分断が広く横行する現代に生きるわたしたちへ贈られる新しいユートピアへの幕開けです。
鉄のカーテンのほか、配線などもすべて排したなにもないミニマムな舞台に、グレイのスーツにはだしという出で立ちのバーン、そして徐々にふえていくマーチングバンド。
この映画の原案となったデイヴィッド・バーンの2018年のアルバム『アメリカン・ユートピア』からとトーキング・ヘッズ時代の曲を織り交ぜた究極の107分間が繰り広げられます。
多彩なパーカッションとソウルフルだけどどこか間抜けたバーンの歌。
そしてアルバム『アメリカン・ユートピア』のアートワークに、消費社会やネイティブアメリカンの歴史といったものを表現するアウトサイダー・アーティストのパーヴィス・ヤングの作品が起用されていることからも分かるように、ドナルド・トランプが当選した2016年の大統領選は、バーン、ないしアルバムを共作したブライアン・イーノにとっても自分たちの立ち位置を再度見つめ直すための大きな足掛かりだったよう。
バーンによる社会、ひいては人間への深い考察を繰り広げながらも、観客を一体にさせ至福で自由自在な空間を作り上げる力量、真のエンターテイナーとして67歳の現在も進化し続けるバーンの姿がすばらしいものに思えます。
今、世界は変化を辿っていること、そのなかで自分自身が変化を恐れないという姿勢を見せることをユーモアと様々な現代の問題に触れつつ見せてくれる、多幸感あふれる時間が用意されています。
コンサートであり、ミュージカルでもあり、政治的なパフォーマンスでもある。
ぜひ劇場で、彼なりの豊かで力強い人生賛歌を浴びてください。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
「アメリカン・ユートピア」
(原題)David Byrne’s American Utopia
6/1公開 2020/米/107分/
監督:スパイク・リー
出演:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスターヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ギアーモ、ティム・カイパー
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