「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
3月のオススメ作品はこちら!
理由も分からず戦争を繰り返す町のリアリスティックな寓話劇。
『山守クリップ工場の辺り』で鮮烈なデビューを飾り、世界の映画祭で高く評価される池田暁監督。
彼はまさに我が道をゆくような、知る人ぞ知る奇才なのです。
そんな池田監督の初劇場公開作『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が京都シネマで公開となります。
目的を忘れ、まったく知らない相手と毎日戦争をしている架空の町を舞台に、きまじめでぼんやりしたひとりの兵隊と、周囲の人々の暮らしを描き出したオフビートな寓話劇です。
舞台の町の名前は津平町。
楽隊が奏でる音楽とともに一日がはじまるこの町は、隣町の太原町と毎日戦争をしています。
時刻はきっかり“9時から5時まで”。8時45分には準備体操、そのあいだに、肝心なことをすべて忘れてしまう町長の夏目は叱咤激励を欠かしません。
9時のサイレンとともに川の向こう岸を撃ち始め、5時ちょうどのサイレンとともに全員がさっさと家路につく。
太原町のことをよく知る人はいないけれど、みんなが口をそろえて恐ろしいと言います。
ある日、毎日をなんの疑問も持たずに生きている兵隊の露木は、楽隊への異動を命じられます。
そしてふとあるとき、川の向こうから聞こえてくる音楽に心惹かれてゆき…。
津平町の暮らしはどこか夢をみているような心地がしますが、現代の縮図でもあります。
映画のあいだじゅう、ずっと心のなかではふんわりとしたオフビートな笑いが保たれつつ、現実世界にある痛みもちりばめられています。
小さな争いごとや、権力という絶対的な力の横行、男女格差など。笑いと痛みのあいだを自由自在に行き来するのです。
同調することは、安心感も得られるけれど危険もはらんでいる。
戦争の目的も忘れてしまった津平町の人々というのは、同調の安心感を得た代わりに、考えること・想像することをやめてしまった世界のお話なのです。
しかし、機械的な人間として描かれる兵隊の露木が、川の向こうの音色に惹かれ、自分と同じように音楽を奏でる人間がいると知った時、彼の生活、彼の周りの生活はすこしずつ変わっていきます。
川の向こうを想像し、川の向こう側の人々の暮らしを想像する。
他者なんて存在しないかのような町に他者の存在が入ってきたとき、露木のなかでなにかが変わる。
小さいけれど、そういう想像力が世界を救うのかもしれません。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
きまじめ楽隊のぼんやり戦争
3/26(金)公開
2020/日/105分
監督:池田暁
出演:前原滉、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎、片桐はいり、きたろう、竹中直人、石橋蓮司
©2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト
【上映スケジュール】
3/26~4/1 9:30~、13:30~、17:50~
4/2~4/8 11:45~、18:10~
4/9~4/15 16:25~
京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。
問い合わせ:075-353-4723
HP:https://www.kyotocinema.jp/