「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
5月のオススメ作品はこちら!
老いに直面した精神科医の慈愛に満ちたポートレイト。
ある一定の年齢になると、わたしたちはみんな、いま就いている仕事から離れ、「第二の人生」とよばれる新しい生活に突入していきます。
あるひとにとっては、できなかったことをやる絶好の機会となり、あるひとにとっては、仕事以外になにをしたらいいのか分からないという方もいるでしょう。
この映画は、仕事一筋で生きてきた精神科医・山本昌知の引退後を捉えたドキュメンタリー映画です。
監督を務めた想田監督は、「期せずして“純愛映画”になった」と語っています。
そうです、これは長年を寄り添ってきたある夫婦の愛の物語なのです。
こころの病とともに生きる人々を追いかけた『精神』の主人公のひとりである山本医師は2018年、82歳でついに引退を決意します。
“医師”という看板を下ろす直前、彼を信頼してきた患者たちの戸惑いと前に進んでいこうとする姿、そして“医師”ではなく、山本昌知というひとりの“人間”となったその後を、忍耐強くカメラにおさめ続けます。
そうして見えてくるのは、認知症の妻・芳子さんとの新しい生活と、避けては通れない“老い”という問題…。
老医師を描くことでいつの間にか夫婦の軌跡に近づいていきます。
お寿司を食べる姿、友人のところに夫婦で連れ立って向かうところなど一見何も起こりえないような日々の記録たちのなかで、カメラは身振りや仕草を捉えていきます。
劇的なことがなにか起こるのだろうか。そんな風に、ふだん映画を見ているわたしたちが期待するような瞬間を待ち浴びますが、この映画には劇的なことは起こりません。
それは、よく知っているおばあちゃんとおじいちゃんを見ているような感じです。
ですが、そういった身振りや仕草をじーっくり見ていると、山あり谷ありの人生を歩んできた夫婦の内側からにじむ、結晶のような優しさや慈愛が見えてきます。
そして、その尊さにとても心を打たれます。いつか別れはやってくるけれど、それでもそこに“愛”があったこと。
手を取り合って歩いていく二人のうしろ姿に、愛しい矛盾を抱えて生きていくことの意味を問われている気がするのです。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
精神0
2020/日、米/128分
監督:想田和弘
©2020 Laboratory X, Inc.
公式HP:https://seishin0.com/
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なお、本作「精神0」は「仮設の映画館」でご自宅からの作品鑑賞が可能です。(~5/22 21時まで)
「仮設の映画館」とは
新型コロナウイルスによる影響で映画館に行くことができない状況をうけ、映画館に行かずとも一時的にインターネット上で映画を鑑賞できる企画。
賛同映画館の中から見る予定だった映画館を選択して作品を鑑賞することで、鑑賞料金が通常の劇場公開と同じく、劇場と配給会社、制作者に分配されます。
鑑賞方法など詳細は「仮設の映画館」公式HPをご確認ください。
京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
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