特集展「受贈記念 辻井コレクション 灯火具―ゆらめくあかり」
灯火具とは、あかりを灯すための道具です。電灯が使われるようになるまで、油や蝋燭(ろうそく)を燃焼させる灯火具が長らく人々の生活を支えてきました。
江戸時代以降、菜種油などの植物油が一般に普及すると、油を用いる灯火具の器形は多様化しました。
仏教とともに伝わり、儀礼の場で用いられた蝋燭の生産量も増加し、陶器や磁器によって装飾性豊かな燭台がつくられるようになりました。
本展では、平成30年度の「辻井コレクション 灯火具」受贈を記念し、その中から江戸時代後期を中心とする陶磁器製の灯火具約25点をご紹介します。
今回、[ことしるべ]読者に向けて、本展担当学芸員の巖由季子様よりコメントを頂戴しました。
” 手のひらにのる小さな秉燭や贅を尽くした燭台など、用途により異なるさまざまな造形が灯火具の魅力の一つです。
冬の訪れを感じる頃、造形の多様さをお楽しみいただきながら、あたたかな灯火を思う機会になりましたら幸いです。”
(大阪市立東洋陶磁美術館 学芸員 巖由季子)
【作品紹介】
染付福禄寿文燭台(そめつけ ふくろくじゅもん しょくだい)
江戸時代後期・19世紀 東山焼 高:48.5㎝
辻井正・由紀子氏寄贈(登録番号05441)
蝋燭の生産量が増加した江戸時代中期以降には、陶器や磁器で燭台が作られるようになりました。
本作品は、胴部に染付で蝙蝠(こうもり)と鹿、「壽」字の絵付けを施し、「福禄寿」の吉祥をあらわしています。
胴部から底部にかけては中空となっており、底部内側には「東山」の染付銘が見られます。
東山(とうざん)焼は、文政五(1822)年に姫路市東山の興禅寺山山麓ではじまり、姫路藩により藩営化が図られました。
織部菖蒲文行灯皿(おりべ しょうぶもん あんどんざら)
江戸時代後期・19世紀
径:21.8 ㎝
辻井正・由紀子氏寄贈(登録番号05495)
行灯皿は、行灯に用いる油の受け皿です。
油皿の下に置き、灯心を伝って落ちる油を受けることで、行灯の台座部分や床が汚れるのを防ぎました。
もとは真鍮などでつくられていましたが、19世紀初め頃から陶器のものに代わりました。
本作品は、見込みに鉄絵で菖蒲を描き、その上下に緑釉を掛けています。瀬戸・美濃の行灯皿は、本作品のように鉄絵文様が施されたものが多く、動植物のほか風景、人物など様々な文様が描かれました。
緑釉秉燭(りょくゆう ひょうそく)
江戸時代後期・19世紀
高:9.0㎝
辻井正・由紀子氏寄贈(登録番号05468)
秉燭とは、油皿の上に灯心を立てる突起をもつ灯火具です。
灯明皿より灯油(あかりを灯すために燃焼させる油)が多く入るため、灯火時間が長いという利点があります。
本作品は急須形秉燭とも呼ばれ、上部の急須状の油皿に灯油を入れ、注口のような突出部分から出した灯心に点火して用います。
全体に緑釉が掛けられ、灯油が浸みこむのを防いでいます。
本作品は把手に穴が開けられているため、持ち運ぶだけでなく、柱などに掛けても用いることができます。
◆特集展「受贈記念 辻井コレクション 灯火具―ゆらめくあかり」◆ |