「吉村芳生 超絶技巧を超えて」吉村大星氏ギャラリートーク

「吉村芳生 超絶技巧を超えて」2回目のギャラリートークは、吉村芳生の長男で画家の吉村大星さんにお話しいただきました。

大星さんは中学校を卒業してから、作品梱包やパネルの製作など父・吉村芳生の作業を手伝うようになります。
いつも横で父の作品が完成に向かっていく様子を見ていた大星さんは今年、テレビ番組の企画で初めて「新聞と自画像」の再現に取り組みました。

「新聞と自画像」シリーズは2千点近い数を誇る吉村の自画像における代表作で、「社会の肖像」である新聞紙面に自らの肖像を重ねて描いたもの。
記事も写真も広告もすべて手描きしたあまりにも緻密な作品は工程も複雑で、フェルトペンや筆ペンなどの画材の使い分けが細かくなされていました。
文字も丁寧に、はみ出さないように……。一から再現してそのボリュームの大きさを実感しつつも、制作に励む父・芳生の姿はいつも楽しそうだったといいます。
楽しんで描きつつ常に新しいものを求める父の姿は、やがて大星さんが画家を志すきっかけとなったのです。

会場後半の花を描いた作品は、商品として百貨店の画廊に出品しつつも、自分が何を描きたいのかを探っていた背景があったそう。
次第に作品が大型化していくのは、作品のスケールを上げることが自らのステージを上げることだと確信してからのことでした。
その後も中州に咲く菜の花を描いた「未知なる世界からの視点」などのように、タイトルに意味を含めたり、作品自体に死生観を込めるなど方向性が変化していきます。

2012年に吉村芳生はパリに渡航し、帰国後の2013年に「無数の輝く生命に捧ぐ」を完成させます。
しかし体調に異変を感じ、描きたいのに体が追い付かない事態に。
絶筆となったコスモスの作品は3枚のパネルに描かれていますが、完成時は10枚のパネルになる予定だったそうです。
「父は死ぬまで描きたかった」と大星さん。入院中も作品のことを考えていたという吉村芳生の創作意欲が、インク切れのような空白から感じられます。

≪コスモス(絶筆)≫2013、色鉛筆/紙


「吉村芳生 超絶技巧を超えて」は6月2日(日)まで美術館「えき」KYOTOで開催中です。