技巧と共存する無作為懐かしさと生命の喜び
SHOWKO 作品の魅力を一言でいうと「懐かしさ」。パワフルでエネルギーがありつつ、生活の中でちゃんと寄り添ってくれる。「隙」みたいなものがある。器の口造もぽたっとして整えられてはいないけれど雑さはなく、計算されているけれど作為的でない。絶妙のバランスが、ほっとさせてくれるのだと思います。
SHOWKOさん
清水 選んでいる色も器に溶け込むような、目立たせたいという色じゃないですね。ある時から派手な色も使わなくなるし。
SHOWKO 私も絵付けをするのですが、そのときの気持ちが線に出てしまうことがあります。でも寬次郎さんの線は躍動感がありながら、気持ちに決して振り回されていない。ここに至るまで一体何個つくったんだろう? と思いますね。展覧会では、どこからどう筆を置き描いているか、なぞるように見るのも、面白いかもしれませんよ。
吉岡 色・技・形が本当に多彩かつ完成されていて十一面観音みたいにいろんな要素がある作品は、すべてに「寬次郎さんらしさ」がある。登り窯を周囲の人と共同で使った寬次郎さんは、人との交流も密だったはず。刺激を受けながら自分らしさを出すことも上手だったのでは。そして全部の作品の気が、すごく陽。鑑賞すると、幸せな気分になりますね。
吉岡更紗さん
日置 「葉っぱが虫に喰われ、虫が葉っぱを喰っているにもかかわらず、虫は葉っぱに養われ、葉っぱは虫を養っている」という寬次郎さんの言葉に出合い、身に起こったことも最終的に全てを喜びとし作品にしていったのではと思いました。どの作品からも生きる喜びや、溌溂としたエネルギーが感じられますよね。
清水 ものづくりをする身として寬次郎さんは絶対的な存在。でも、おこがましいけれど「いつか越えたい」とも思います。日々いろいろ深く考えながら生活した寬次郎さんのように、まずはアンテナをいっぱい立ていろんなことに感動する生き方に近づきたいですね。
出演者プロフィール
清水 大介さん
きよみず だいすけ/五代目清水六兵衞の曽孫として京都に生まれる。2011年生活に寄り添う器をコンセプトにした清水焼ブランド「トキノハ」立ち上げ。15年ショップ・カフェ・陶芸教室併設の「HOTOKI」を開く。19年料理人向けオーダーブランド「素-siro」開始。
SHOWKOさん
しょうこ/窯元「真葛焼」に生まれる。2005年陶板画作家として活動開始。「読む器」をコンセプトにしたプロダクトブランド「SIONE(シオネ)」を立ち上げ、陶板画制作、プロダクトデザイン、ブランディングや茶会などを通じ、現代に生きるもてなしの文化・時間を創造。
日置 美緒さん
へき みお/京都市立芸術大卒。アトリエひふみ主宰。国宝・重文の建築や仏像、祇園祭山鉾、古美術の修復、茶道具・陶磁器の金継を手掛け、漆芸品やオリジナルジュエリー「日文」を制作。欧州各地での展示や金継・漆ワークショップ、海外著名芸術家との舞台作品創作も行う。
吉岡 更紗さん
よしおか さらさ/アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県の西予市野村シルク博物館にて養蚕、座繰り機での製糸、撚糸、染色、製織を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、自然界に存在する植物で染色、織を中心に制作を行っている。