17日(土)、「ターナー 風景の詩」開幕初日に郡山市立美術館 主任学芸員の富岡進一氏による講演会が行われました。
小学生のときに画集を見て、「世界が空気に包まれている」と感じてからターナーのことを考えているという、まさに「半生をターナー研究に捧げている」と言っても過言ではない氏による講演は、数々のターナーのエピソード紹介からスタートしました。
その76年の生涯でおよそ3万点(1日1枚作成のペースでも到達しません!!)もの作品を残したターナー。
美術教育を受けることがなかった彼の、子どもの絵画にはとうてい思えない、9歳、12歳の頃の驚異的な作品の画像を見て唯々感嘆。
また、牛車・馬車か徒歩でしか行けない時代にイギリスからスイス・アルプスの峠に60歳台の時に旅したという、絵画技術に加えて強靭な肉体・精神力も持ち合わせていた逸話にも驚かされました。
「(ターナーは)イギリスの風景観を一変させた」と作家オスカー・ワイルドに言わしめたその風景画の数々は、ここ日本にも影響を及ぼしていると考えられ、「名所」「山水」から「風景」へと、身近な自然に美しさを見出す視点が与えられた、とのこと。
実際、明治30~40年代にイギリスに渡った多くの日本の画家が、ターナー作品に感銘を受けたという記録が残っています。
京都画壇の竹内栖鳳もその一人で、彼の風景画「ベニスの月」のセピア色の風景表現や「鯖」の水彩表現にターナーの影響がみられることを、作品比較で目の当たりにすることができたのも、京都会場としてはうれしいお話でした。
夏目漱石の「坊ちゃん」でもターナーについて言及されていることも知り、あらためて読んでみたくなった方も多いのではないでしょうか。
また、本展覧会をより楽しむための知識として、18,19世紀のイギリスにおける3つの美的概念が紹介されました。
・美(Beauty)-均整、調和、洗練
・ピクチャレスク(Picturesque)-粗さ、不規則な対象、廃墟、岩
・崇高(Sublime)-恐怖心、不安を呼び起こす対象、嵐、断崖絶壁
どれもズバリ、ターナーの画風の特徴に当てはまる要素。「特にピクチャレスクの要素が多く、それを探すのが鑑賞の面白さにつながる」、と富岡氏。
また、当時ナポレオンのフランスとの戦争状態にあったイギリスでは、陸地・海岸ともに敵国の脅威にさらされており、「国防」のために地形を熟知する必要性から、本展の章立てのひとつ「地誌的風景画」がさかんに描かれたというお話も大変興味深い内容でした。
イギリス訪問の際に、セント・ポール大聖堂に眠るターナーに、本展の成功を祈り、手を合わせてきてくださったという富岡氏の嬉しいエピソードで90分の講演は締めくくられました。
おまけ
映画「ターナー、光に愛を求めて」でターナーを演じたティモシー・スポールについて富岡氏は、「自分の頭の中のターナーの姿そのままでした」とおっしゃっていました。
3月20日(火)18:30~、21日(水・祝)13:30~、17:00~ の映画上映にも注目です。
(会場:京都文化博物館3階フィルムシアター ※ローソンチケット(Lコード:56710)で取り扱う展覧会入場券付チケット(2000円)が必要です )
あと、2020年から20ポンド紙幣の顔になるとのこと。その時期にイギリスに行かれる方はぜひチェックを!
展覧会は4月15日(日)まで開催。会場でお待ちしております!
公式HP→https://turner2018.com/