開催期間:2022年9月10日(土)~2022年11月6日(日)
19世紀末から20世紀前半にかけてフランスで活躍したアンリ・ル・シダネル(1862-1939)とアンリ・マルタン(1860-1943)。共に印象派、新印象派の流れを汲みつつ、象徴主義など同時代の表現技法を吸収しながら幻想的な主題を扱ったほか、生活の情景や身近な人々を親密な情感を込めて描くアンティミスト(親密派)としても知られています。2人は1891年の最初の出会い以降、生涯にわたり親交を深めましたが、シダネルは北フランスで薄明かりに包まれた穏やかな光を、マルタンは南フランスで陽に照らされた明るい光を描き出し、それぞれ独自の画風を築きました。本展では、これまで日本で紹介される機会の少なかった2人の画家の画業を9つの章に分けてご紹介します。光と色彩に彩られた作品をぜひお楽しみください。
「最後の印象派」と呼ばれたふたりの巨匠
アンリ・ル・シダネル (1862-1939)©Yann Farinaux-Le Sidaner
インド洋モーリシャス島に生まれ、ダンケルクで育つ。国立美術学校(エコール・デ・ボザール)でアレクサンドル・カバネルに学びエタプルやジェルブロワなど北部を中心に活動し、身近なものを情感豊かに描いた。新協会(ソシエテ・ヌーヴェル、正式名称「画家彫刻家新協会」)、国民美術協会サロン(通称「サロン・ナショナル」)の中心的メンバーとして活躍する。シダネルが見出し愛したジェルブロワは現在では「薔薇の村」として知られ、「フランスの最も美しい村」のひとつにも選ばれている。
アンリ・マルタン (1860-1943)©BNF Gallica. Domaine publique
トゥールーズに生まれ、国立美術学校で ジャン=ポール・ローランスに学び、フランス南部の明るい陽光のもと風景や人物像を象徴主義的な雰囲気の中に描いた。大画面の装飾壁画にも優れ、フランス国務院をはじめとする多くの公共空間に作品を残した。シダネルとともに新協会の設立に携わり、フランス芸術家協会サロン(通称「ル・サロン」の中心メンバーとしても活躍した。
❶エタプルのアンリ・ル・シダネル
1882年に国立美術学校に入学したシダネルでしたが、パリの喧騒から離れるために1885年から1894年にかけてフランス北部の小さな港町エタプルに滞在し、そこで北部特有の光の表現を学びました。シダネルはエタプル滞在の中で自身の画風を確立し、画壇で評価を得るようになっていきます。《エタプル、砂地の上》は、1888年のサロンに出品し成功を収めた2点のうちの1点で、海辺で休憩する二人の若い羊飼いが淡い光のなかに描かれています。
アンリ・ル・シダネル《エタプル、砂地の上》1888年/フランス/個人蔵/©Bonhams
❷象徴主義
19世紀末、ヨーロッパ全土で象徴主義が流行しました。世紀末世界における不安やメランコリーなど、観念的な世界を表現するこの傾向に対し、二人の作品にもその影響が表れています。1890年代、シダネルは穏やかな光に満ちた静謐な雰囲気の漂う情景を描き、一方でマルタンはさらに象徴性の強く表れた作品を描きました。1900年以降、マルタンの作品から象徴性は薄れ、人物の表情や眼差しにその片鱗を残すのみとなりましたが、シダネルはその後も新しい側面を見せつつも、控えめで親密さを持つ暗喩的な美的感覚を持ち続けました。
❸習作の旅
印象派をはじめとした19世紀の風景画家たちは各地を旅してその地の風景を描きました。彼らの印象派の末裔でもあるシダネルたちも各地で情景の数々を描き、アトリエに戻って完成作に仕上げていきました。シダネルはフランス北部を中心に、ブルターニュ地方、南仏などをめぐり、さらにイギリス、ベルギー、イタリアへも足を運びました。このような旅での中で、シダネルは自身の作品において重要な「調和」を見出していきます。
アンリ・ル・シダネル 《サン=トロペ、税関》 1928年/フランス/個人蔵/©Yves Le Sidaner
アンリ・ル・シダネル《イゾラ・ベッラ、ブドウ棚》1909年/メス・メトロポール/クール・ドール博物館/Inv. 418/©Yves Le Sidaner
❹アンリ・マルタンの大装飾画のための習作
マルタンは市庁舎や大学など、公共建築の装飾壁画をしばしば手掛けました。マルタンの装飾壁画の特徴のひとつとして群像表現があり、描かれる人物たちの姿勢、位置関係などについて、スケッチや習作を繰り返して構想を練っていくことで、大画面の作品を完成させていきました。これらは習作とはいえ、それぞれが一つの作品として楽しむことができ、マルタンの的確な描写力が示されています。
アンリ・マルタン《二番草》1910年/フランス/個人蔵/©Archives photographiques Maket Expert
❺ジェルブロワのアンリ・ル・シダネル
シダネルは1901年に小さな田舎の村ジェルブロワを見出すと、1904年に家を購入し、本格的に制作の拠点を構えました。ジェルブロワの穏やかな雰囲気やバラの咲き誇る庭は、シダネルにとって格好の題材となりました。この章で紹介する作品は、1900年以降、シダネルの絵から徐々に人物が消えるようになった時代の初期に描かれたものです。代わりに、食卓の上に並べられた食器や、窓からこぼれる室内の灯りによって人の存在を暗示し、シダネルの真骨頂ともいえる作風が確立されました。
アンリ・ル・シダネル《ジェルブロワ、テラスの食卓》1930年/フランス/個人蔵/©Luc Paris
❻ラバスティド・デュ・ヴェールのアンリ・マルタン
シダネルにとってのジェルブロワと同様、南仏のラバスティド・デュ・ヴェールはマルタンの画風が確立する上での重要な場所となりました。1900年にマルタンは別荘「マルケロル」を購入し、アトリエを構えます。橋や川、丘など同地の風景を題材に描き、特に主要な着想源であったマルケロルの庭は、絵画の題材にすることを念頭にマルタン自身が造った空間でした。以降、マルタンの絵からは象徴性が影を潜め、親密で身近な光景が描かれるようになりました。
アンリ・マルタン《池》1910年以前/フランス/ピエール・バスティドウ・コレクション/©Galerie Alexis Pentcheff
❼ヴェルサイユのアンリ・ル・シダネル
1909年から晩年にかけて、シダネルは息子たちの教育のためにヴェルサイユにも居を構え、季節の良い時期はジェルブロワに滞在し、そのほかの時期はヴェルサイユで過ごしました。かつての宮殿や庭はシダネルにとって格好の題材となりました。第一次世界大戦のためにヴェルサイユに留まったシダネルは1912年の最初の作品群以降、「ヴェルサイユ」のシリーズを描き続け、散歩道でもあった公園を素朴で身近な情景として表しました。
❽コリウールとサン・シル・ラポピーのアンリ・マルタン
一方マルタンは、1911年にラバスティド・デュ・ヴェールに近いサン・シル・ラポピーに、1923年にコリウールに家を購入して新しい拠点とし、同地の情景を描きました。とりわけコリウールでは、様々な変化を見せる海の色と砂浜に係留された舟や漁師たちの活気に理想的な対比を見出し、南仏のまばゆい陽光を鮮やかな色彩で表しました。
アンリ・マルタン《コリウール》1923年/フランス/個人蔵/©Archives photographiques Maket Expert
❾家族と友人の肖像
シダネルとマルタンは、身近な人物を愛情豊かな眼差しで描き出したことから、「アンティミスト(親密派)」とも呼ばれました。シダネルは1900年代から画中に人物を描かなくなりましたが、家族や友人など身 近な人々は好んで描き続けました。一方、マルタン壁画の中に家族や友人の肖像を描き込み、自身の創作に親愛と友情が必要であることを示しました。
~開館25周年記念イベント~ ①展覧会オリジナルポストカードプレゼント! ②1997年生まれ割引 ③アンケート回答でアンリ・シャルパンティエのフィナンシェプレゼント |
☆★☆★☆2022年9月9日付京都新聞朝刊に掲載された特集紙面はコチラでもご覧いただけます!!
開催期間 | 2022年9月10日(土)~2022年11月6日(日) |
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時間 | 10:00~19:30(入館は19時まで) |
休館日 | 会期中無休 |
会場 | 美術館「えき」KYOTO JR京都駅下車すぐ・ジェイアール京都伊勢丹7階隣接 |
ホームページ | https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2208.html |
料金 | 一般:1,100円(900円) 高大生:900円(700円) 小中生:500円(300円) ※( )内は前売料金。「障害者手帳」をご提示のご本人さまとご同伴者1名さまは、当日料金より各200円割引。 前売り券は2022年7月30日(土)から2022年9月9日(金)まで発売。販売場所は美術館チケット窓口(休館日を除く)、京都駅ビルインフォメーション、チケットぴあ(Pコード685-987)、ローソンチケット(Lコード54543) |
お問い合わせ | ジェイアール京都伊勢丹 075(352)1111(大代表) |
主催/後援など | 主催:美術館「えき」KYOTO、京都新聞 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 協力:日本航空 企画協力:ブレーントラスト |
備考 | ※新型コロナウイルス感染症の状況により、変更する場合がございます。 ※本展覧会は事前予約不要ですが、混雑状況により入館をお待ちいただく場合がございます。予めご了承ください。 |