カブや花、鯉など身近なモチーフの中に“奥深い美意識”や“静かな感動”を込めて描いた画家・徳岡神泉に焦点を当てた展覧会「徳岡神泉―深遠なる精神世界―」を、京都府立堂本印象美術館で開催中です。
徳岡神泉を紹介する展示は、京都では1996年に京都国立近代美術館で開催されて以来、20年ぶりの開催となります。
でも、徳岡神泉っていったいどんな画家?
ここでは、11月3日(土・祝)に開催された講演会「徳岡神泉が求めたもの」(講師:堂本印象美術館主任学芸員 山田由希代氏)の内容をもとに、徳岡神泉についてご紹介します。
~神泉様式の幕開け~
大正12年、関東大震災をきっかけに帰京をした神泉は、竹杖会に再入塾して活動を開始します。
大正14年の第6回帝展で初入選。その後も、数々の作品が入選を果たし、帝展の常連画家の一人として活躍するようになりました。
しかし、昭和10年には「説明的な構図の絵しか描けない」と思い悩み、帝展への出品を止めてしまいます。
スランプから脱出したのは4年後の昭和14年。
神泉は第3回新文展に《菖蒲》という作品を出品しました。
そこには、落ち葉や虫などの説明的なモチーフは一切省かれ、対象の菖蒲だけが描かれています。
単純な構図ながら、モチーフと背景が呼応しあう独特な絵画表現が生まれたのです。
この作品は、政府の買い上げになるなど高い評価を受けました。
以降、モチーフと自身との深いかかわりをじっくりと見つめて作品に落とし込む“神泉様式”が徐々に熟成されていくことになります。
神泉様式の幕開けの作品となった《菖蒲》は本展でもご覧いただけます。
次回は、神泉がたどり着いた”神泉芸術”について紹介します。