「私たちが見た能面展」
-京都市立芸術大学能楽部-
能面とは不思議な存在である。観能していると、役者が男性だと分かっているにもかかわらず、いつしか登場人物の性別や年齢、立場などをそのまま享受してしまう。その要因となっているのが、役者の演技であり装束であり、そして能面である。特異な存在感を持つ能面を間近で鑑賞できる機会は多くはない。「能面100」はそれが叶う貴重な機会であり、さらに百種の能面を一度に観られる数少ない場だ。
会場に入ると、翁面が出迎えてくれる。翁面は、他の能面に比べて細かな彫り跡が見られ、その彫り跡に光が反射することで、様々な表情を見せてくれる。
古代の農業儀式に由来する式三番の面は、室町時代に制作された最古の能面であり、表面の傷や木の変色などからも窺える。それがかえって、神々しいオーラを放っているのが実に興味深い。顔の形状だけでなく、材質や保存状態によっても異なる表情を見せる能面の数々に、惹き込まれること間違いないだろう。
能楽堂で観能する時、暗闇に浮かび上がる舞台はまるで別世界のようだ。黒を基調とし照明が抑えられたこの会場は、それに似た雰囲気を味わいながら鑑賞できる。
さまざまな面を見ていると「能面は無限表情」の言葉は理解しつつも、各々の表情の豊かさを強く感じる。特に目だ。小面は普通の人間の目だが、般若面になるとギョロリとした大きな目玉が上目づかいに睨む。荒々しい神に用いられる大飛出に至ってはまぶたが無く、眼球剥き出しで見つめてくるので、夜には遭遇したくない。大天神は大飛出と共に菅原道真がモデルだが、顔立ちはまだ人間らしい。しかし金泥を施された目は思いきりこちらを見下しており、憤怒と共に強烈な威圧を感じる。
私の好きな面は「蟬丸」だ。これは盲人のため目を伏せており、穏やかでミステリアスな表情に見える。しかし目で語ることをしない彼の本当の感情は、能「蟬丸」を観なければ分からないのかもしれない。(京都市立芸術大学能楽部 成瀬 はつみ、小原 唯)
蟬丸/金剛家
※画像は特別に許可を取り撮影されたものです。通常、会場内は撮影禁止です。
京都市立芸術大学能楽部 |
展覧会は2月6日(日)まで。お見逃しなく!