「堂本印象 創造への挑戦」注目作品③

2018年3月にリニューアルオープンした京都府立堂本印象美術館。
開館当初の明るくて美しい色合いの外観の復活、庭園整備や隣接する京都市バスの停留所を一体感のあるデザインとするなど好評を得ています。
リニューアルオープンを記念した展覧会「堂本印象 創造への挑戦」が6月10日まで、「きぬかけの路」にある同館(京都市北区平野上柳町)で開催中です。
この展覧会では、堂本印象の若き日から晩年までの代表作を一堂に見ることができるほか数十年ぶりに同館で展示される話題作品もご覧いただくことができます。そこで、同館学芸員の松尾敦子さんに、その中でも「特にご覧いただきたい作品」をご紹介いただきました。
今回は戦後から晩年にかけて描かれた三作品を取り上げます。


 
堂本印象「太子降誕」(たいしこうたん)
1947年(昭和22) 56歳
京都府立堂本印象美術館蔵

聖徳太子が誕生した場面を描いたものです。昭和15年(1940)、印象は聖徳太子創建として知られる大阪四天王寺の宝塔の堂内荘厳を手掛けましたが、昭和20年(1945)の大阪大空襲によって焼失しました。このことが本作を描く一つの契機となったともいわれます。終戦を経て、新しい日本画のあり方を模索するなかで、印象の戦後の出発は本作に始まります。


堂本印象「交響」(こうきょう)
1961年(昭和36) 70歳
京都府立堂本印象美術館蔵

新しい日本画を追求し続けた印象は、東洋の書を彷彿とさせる筆のストロークと、金箔による装飾性を融合させた独自の抽象世界を確立させました。「作曲家が楽譜に記号で作曲するように色彩と構図で私の交響曲を表現したい」とは、制作にあたって印象の残した言葉です。さまざまな楽器が響き合い、音が交錯しているさまを絵画によって表現する意図がみられます。



堂本印象「豊雲」(ほううん)
1974年(昭和49) 83歳

最高裁判所が新庁舎(現庁舎)建設に当たり、大会議室を飾る絵を印象に依頼しました。
当時、80代であった印象は、「雲のような大きな心を― と仏心をこめて制作した」と語るように、横幅11メートルを超える巨大作品を手がけました。
作品を一層華やかにしているのは、これまた印象デザインによる金メッキを使った装飾額です。この額は、京都の金物装飾を手がける職人が印象の小下絵をもとに制作しました。また、戦前より懇意にしている越前の紙漉きから麻紙を調製し、さらに中国明代の古墨を使用するなど日本画家としてのこだわりも見逃せません。