泉屋博古館で開催される「絵描きの筆ぐせ、腕くらべ ―住友コレクションの近代日本画」。住友邸を飾った日本画家たちのくせのある名画が勢揃いの見逃せない展覧会です。近代日本画の名品を画家の筆ぐせからご鑑賞いただきます。本特集では、住友コレクションの近代日本画から6名の画家を選出し、泉屋博古館分館長の野地耕一郎先生に彼らの「筆ぐせ」の魅力をご紹介いただきます!!
◆西洋画法も取り込んだ人工楽園のような風景画。
森琴石 山水図 明治30年(1897)
絹本着色・軸 171.2×87.5㎝
森琴石(1843-1921)は、摂津国有馬郡湯元(現・兵庫県神戸市)の商家の生まれ。14歳前後から地元の絵師に南画を学んだ。明治維新後には上京して写実的な「鮭」の絵で知られた高橋由一に洋画を習い、さらに諸国を歴遊して清国画人とも交流。細密な銅版画でも知られるマルチな文人画家だった。
画面の中央あたり、重畳とした山水画のなか、うねりながら山奥にのびる山道を二人の文人が歩みゆく。画中の賛には、胸中山水の理想郷に精神を自由に遊ばせることを喜びとする文人の気持ちが詠われている。緑青や群青を多用した山容や樹木、岩石の皴法など丹念な描き込みは来舶した清国画人からの感化を感じさせるが、合理的な空間の奥行きには西洋画法が生かされている。琴石の線質は、銅版画も試みた硬質で明快なところに「くせ」がある。それによって練り上げられた山水画は、人工楽園の趣がただよう近代的な「風景画」への指向も透けて見えるようだ。
◆次回は富岡鉄斎の筆ぐせをご紹介します!お楽しみに!!