第四章より~現代作家が創る「陶の花」

第四章より~現代作家が創る「陶の花」

陶の花は語る

「やきもの」といえば、多くの方は壺や皿など器を連想します。しかし、やきものの表現世界は器だけにとどまらず、実に多彩にひろがります。
本展最終章である第四章では、「陶の花は語る」と題して7名の現代作家による「陶の花」の造形にスポットをあてています。


田嶋悦子は、花や樹木を思わせる陶の造形で展示空間を構成する=(インスタレーション)で知られる作家です。この作家にとって花は「生命、希望の象徴」であり、作家のことばを借りると「それら(花)は美しいという言葉だけでは言い表わせない感動がある」といいます。

写真は、陶とガラスの造形を組み合わせたオブジェクト<Cornucopia>です。
<Cornucopia>とは 豊穣なる生命のかたちを意味します。一般に多くのやきものは、土による造形の表面が釉薬つまりガラスで覆われています。作品<Cornucopia>は、「表面からではなく断面からやきものを見せるとどうなるか」、作家の独特の発想で生まれた作品です。のびやかに開花する花を思わせる造形は、白く穏やかな質感の「陶」と柔らかに光を通す「ガラス」によって生命感を帯びています。

田嶋 悦子(たしま えつこ)-1959年 大阪府生まれ
1987年 「アート・ナウ’87」(兵庫県立近代美術館)
1994年 「クレイワーク」(大阪/国立国際美術館)
2004年 「有隣荘・田島悦子・大原美術館」(岡山/大原美術館)
2007-2009年 「魅せられる…今、注目される日本の陶芸展」(滋賀県立陶芸の森陶芸館ほか、アメリカ巡回) 
2012年 「ソンエリュミエール」(石川/金沢21世紀美術館)
2018年 「田嶋悦子 Record of Clay and Glass」(兵庫/西宮市大谷記念美術館)


次に紹介する作品は、秋永邦洋「恒久切花 木蓮」です。
秋永邦洋は、動物の骨格などをモチーフとして「装飾」をテーマに制作を行っています。そこには「生と死」の間にある世界観が表現されています。


撮影:南野 馨

写真の作品は、黒い釉薬で覆われたやきものの切り花がアクリルケースに納められています。まるで永遠に保存される花の標本のようなイメージが伝わります。
作者は、自宅の庭に毎年のように咲く木蓮の美しい花が儚くも散りゆく姿から、美しさと散る命はうらはらであると感じ、なんとかこの美しい命を永遠に残したいと、切り花をモチーフとして硬く恒久に変わらないやきもので制作しました。
本来の切り花は人の手によって余命宣告を受けたにも関わらず、儚くも懸命に生き朽ちていきます。しかし陶の恒久切花は永久に形を留続けます。しかし本当は、潔く散る方が良いのでしょうか?それとも永久に残る方が良いのでしょうか?この作品はそんな、現代社会のジレンマを見る者に問いかけているのです。
本展では、「恒久切花」のシリーズから、木蓮、向日葵、バラ、チューリップの作品が展示されています。

秋永 邦洋(あきなが くにひろ)-1978年 大阪府生まれ
2007年 「第45回朝日陶芸展」 奨励賞
2010年 「黒の立体陶・植物紋のかたち」(愛知/INAX MUSEUM )
2012年 「岡本太郎現代芸術賞」(神奈川/川崎市岡本太郎美術館)
2013年 「ファエンツァ国際陶芸展」(イタリア)
2015年 「マイヤー×信楽大賞 伝統と革新 日本陶芸の今」金賞(アメリカ/フレデリック・マイヤーガーデンズ&スカルプチャーパーク/、滋賀県立陶芸の森陶芸館)
2018年 「第13回パラミタ陶芸大賞展」(三重/パラミタミュージアム)


誰もがその存在を知っている「花」-。
人は、凛として大輪の花を咲かせる華やかさに憧れ、また時には、ひっそりと咲く名もなき小さな花たちに癒されます。そして人智を超えた美しさ、旺盛な生命力に恐れすら感じることもあるでしょう。
現代の芸術家たちは「花」をどのようなイメージでとらえ、「花」から、何を感受し、自己の作品に投影しているのでしょうか。そんな作者の思いを感じてください。


展覧会も残すところあとわずかです。お見逃しなく!!