【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 156】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「アメリカッチ コウトノリと幸せな食卓」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 156】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「アメリカッチ コウトノリと幸せな食卓」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
6月のオススメはこちら!

 

想像力を研ぎ澄ませて生きることを楽しみ続けた男の仲直り作戦。

自身のルーツをもとめ、生まれる前に奪われてしまった自分の一部を取り戻すこと。
ディアスポラの痛みとアイデンティティの探求を描いた『アメリカッチ コウトノリと幸せな食卓』は、困難な歴史の上に涙ではなく微笑みを築こうとする男の物語です。
胸が温かくなると同時に、国境という強者がひいた線に翻弄されることの理不尽さを訴えかけます。

幼少期にオスマン帝国(現在のトルコ)でのアルメニア人に対する迫害から逃れるためにアメリカに渡ったチャーリーは、1948年自身のルーツがあるアルメニアへ戻ることに。
ところが、あるアルメニア人女性を手助けしたことをきっかけに、チャーリーは西側のスパイと見なされ不当に逮捕、収監されてしまいます。
悲嘆に暮れるなかで、牢獄の小窓から見えるアパートに暮らす夫婦を観察することが日課となっていきます。
いっしょに食事をし、アルメニアの歌を覚え、会話を楽しむ日々。
探し求めていた“アルメニアの日常の風景”に触れることができたのですが、ある日、夫婦仲がこじれて、妻が家を出ていってしまい……。

看守から“チャーリー・チャップリン”とあだ名をつけられた主人公チャーリーは、その名に恥じないぐらいに力強いコメディセンスを発揮。
あらゆる瞬間が喜劇のようになるので、時折そこが劣悪な刑務所のなかであることを忘れそうになるほどです。
そのエネルギーは周りの囚人たちだけでなく看守たちにも影響していきます。
創意工夫がほんとうに楽しい。そして壁を隔てた男たちの密やかな友情が温かみを倍増させます。
しかし、楽しいだけでは終わりません。
映画の核となる歴史的な事件として、1915・16年第一次世界大戦時におきたオスマン帝国によるアルメニア人虐殺事件(かつてファティ・アキン監督が描いた『消えた声が、その名を呼ぶ』もこの事件が題材となりました)。
そして、1946年からソ連邦の一部となったアルメニアが宣伝した祖国帰還事業。
1915年のジェノサイドを生き延びた祖父に捧げられた本作は、アルメニアを語る上で欠かせない悲惨な歴史のその後と、そういった歴史に対する悲しみや怒りに飲み込まれずに失われた自分自身のルーツを取り戻すことを描き、希望をもって幕を閉じるのです。

 

執筆:川添結生(京都シネマ)



6月13日(金)公開 
「アメリカッチ コウトノリと幸せな食卓」
(原題)Amerikatsi
2022/アルメニア、アメリカ/121分
監督:マイケル・グールジャン
出演:マイケル・グールジャン、ホヴィク・ケウチケリアン
© 2023 PEOPLE OF AR PRODUCTIONS and THE NEW ARMENIAN LLC All Rights Reserved.

【上映スケジュール】
 詳細は京都シネマの公式ホームページにてご確認下さい。

 



京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。

問い合わせ:075-353-4723
HP:https://www.kyotocinema.jp/