「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
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青春期の終わりを迎えた人々の“奇跡のような幸福なひととき”。

五十嵐耕平監督の『泳ぎすぎた夜』（ダミアン・マニヴェル監督との共同作）の序盤で、主人公の小さな男の子がポケットから取り出したみかんをむきはじめたあと、別のことに気を取られて手袋を落としてしまったことに気が付かないという場面があります。
わたしはこのシーンが大好きで「ああ道端に落ちている手袋はこうやって忘れられていくんだな」と思いました。つまり、「瞬間」を生きる小さな男の子の、もう思い出されることもないであろう「瞬間」を逃さない。ゆえにとても忘れがたく、永遠に心に残り続ける作品なんだろうなぁと考えていました。
なんてことない「瞬間」をまちがいなく「永遠」として映画に残すことに長けている五十嵐監督の最新作のタイトルは、『SUPER HAPPY FOREVER』。
あっという間に過ぎ去ってしまう「幸福」、そのキラキラを閉じ込めようとしたら、その煌めきの手触りだけが残されたような、寂しくて温かい一作です。

2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。 まもなく閉館を迎えるこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人従業員たちが一足先に退職日を迎えようとしている。佐野は、5年前にここで出会い、恋に落ちた妻・凪を亡くしたばかりだった。
妻との思い出に固執し、自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言するものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は佐野には届かない。
2人は少ない言葉を交わしながら、閉店した思い出のレストランや遊覧船をめぐり、かつて失くした赤いキャップを探していた…。

なぜこのふたりが一緒にわざわざ伊豆まで来てるんだろう？と思うぐらい佐野と宮田の関係性はよそよそしい。佐野の表情はうつろで、喪失感だけが浮き彫りになります。
さまざまなところで「？」が浮かびあがる前半ですが、5年前の同じ場所に引き戻されるとき、ゆるやかにそれまで浮かび上がっていた「？」が回収されていきます。
この旅の真の「喪失」の意味と、たしかにこの場所で感じられた「多幸感」で押しつぶされそうになりました。事象ばかりの世界で、記憶はたよりないものかもしれません。
しかし、消えていく記憶、知り得なかった誰かの記憶は、きっと形を変えていまも存在しているのではないでしょうか。そう、信じてみたくなります。
秋のはじまりに過ぎ去った夏の思い出を映画館で観てみるのはどうでしょうか。

執筆：川添結生（京都シネマ）

10月11日(金)公開 『SUPER HAPPY FOREVER』
2024/日・仏/94分
監督：五十嵐耕平
出演：佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠、ホアン・ヌ・クイン、笠島智、海沼未羽、足立智充、影山祐子、矢嶋俊作
©2024 NOBO／MLD Films／Incline／High Endz

■作品公式サイト
https://shf2024.com

【上映スケジュール】
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