「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
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作曲家チャイコフスキーの妻アントニーナは、ほんとうに“悪妻”だったのか。
「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」の三大バレエ組曲をはじめ、優れた音楽を世に送り出したピョートル・チャイコフスキー。
同性愛者という噂がささやかれていた彼が37歳のときにめとった8歳年下のアントニーナ・ミリューコヴァとの結婚生活悲惨を極め、わずか数週間で破綻したという記録が残っています。
結婚生活破綻後も、チャイコフスキーを信奉し、破滅への一途をたどったアントニーナは、のちに“世紀の悪妻”というレッテルを貼られています。
そんなアントニーナの知られざる実像を、史実に従いながら大胆な解釈を織り交ぜて描いたのが『チャイコフスキーの妻』。
監督は『LETO-レト-』(18)、『インフル病みのペトロフ家』(21)で挑発的な映画を世に出してきたロシアの鬼才キリル・セレブレンニコフ監督です。
1877年、地方貴族出身の貧しい娘アントニーナが、かねてから一方的な想いを寄せていた作曲家チャイコフスキーへ恋文をしたためます。
チャイコフスキーは、そんなアントニーナを一度は素っ気なくあしらったものの、「静かで穏やかな愛ならば」という条件付きで結婚を決意します。
しかし、二人の共同生活は、暗澹たるものになり、やがて仕事と称してサンクトペテルブルクに旅立ったチャイコフスキーは、そのまま彼女のもとに帰ってくることはありませんでした。
チャイコフスキーの弟や友人から離婚を懇願されたアントニーナは、それでも夫へのゆるぎない愛を示しますが、誰の理解も得られないまま孤独な日々のなかでもがき苦しみ、次第に狂気の淵へとおちていきます……。
妻を疎んじて嫌悪感を高めていくチャイコフスキーと、最愛の男性を射止め幸せに酔いしれるアントニーナ。
この映画をみるとなぜアントニーナだけが“悪妻”と後世に語り継がれ、一方でチャイコフスキーは“偉大”なのか。
一方だけの証言が優先されてきた歴史のなかでのジェンダーの不均衡さが浮き彫りになってくるようです。
どれだけ拒絶されようとも盲心を重ねていくアントニーナの愛は次第に強迫観念へと変化していき、映像はそんな彼女の心象風景に沿って表世界から裏世界へと次第に迷い込んでいく。
彼女にとって、チャイコフスキーの妻でいつづけるということは「生き延びる」ためだったのかもしれません。
男性という権威によって窒息しそうな日々を送ったアントニーナの姿は、国から横領の疑いをかけられ自宅軟禁を課されながらも隠れて『インフル病みのペトロフ家』を撮ったり、亡命を余儀なくされたセレブレンニコフ監督の姿が重なるようでもあります。
鬼才キリル・セレブレンニコフ監督の最新作はぜひ劇場でご覧ください。
執筆:川添結生(京都シネマ)
9/6(金)公開 『チャイコフスキーの妻』
(原題)Tchaikovsky’s Wife
2022/露、他/143分/PG12
監督:キリル・セレブレンニコフ
出演:アリョーナ・ミハイロワ、オーディン・ランド・ビロン、フィリップ・アヴデエフ、ユリア・アウグ
©HYPE FILM – KINOPRIME – LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA
■作品公式サイト
https://mimosafilms.com/tchaikovsky/
【上映スケジュール】
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