「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
5月のオススメ作品はこちら!
崇高なる芸術、人間の欲と狂気が、悪夢の交響曲を奏でる!禁断のサイコスリラー。
圧倒的!観終わった直後、あまりにも圧倒されて席から立ち上がれなかったり、劇場をあとにしてからものろのろと道端で立ち止まってしまってしまったり…。
そんな強烈なパンチを受けたような映画に出くわすときがあります。
『イン・ザ・ベッドルーム』や『リトル・チルドレン』を手掛けたトッド・フィールド監督の16年ぶりの最新作『TAR ター』は、圧巻で、異様な空気をかもしだす問題作といえるでしょう。
本年度アカデミー賞作品賞ほか6部門にノミネートのほか、ゴールデングローブ賞では主演リディア・ターを演じたケイト・ブランシェットが主演女優賞を獲得しました。
舞台は、上下関係が厳しいクラシック音楽業界。
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ターが主人公です。
レナード・バーンスタインを師とする彼女は、アメリカ5大オーケストラで指揮者を務めたあと、名門ベルリン・フィルの首席指揮者として就任して7年。
天才的な能力と、それを上回る努力、類まれなるプロデュース力で、すでに「マエストロ」の名をものにしています。
作曲の才能にも恵まれ、後進を指導し、自伝の執筆をしながら、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャー、新曲の創作に苦しんでいました。
そんななか、かつての教え子クリスタが自殺したというニュースが飛び込んできます。
そのことをきっかけに、リディアの足元はぐらつきはじめ、抜き差しならない状況へと追い込んでいきます…。
冒頭、ウィキペディアをたぐるようなイントロダクションから、リディアのすばらしく天才的な一面を引き出してわたしたちを魅了するのもつかの間、じょじょに『シャイニング』のようなゴシックホラー的演出で、肥大化する自己とパラノイアを描いていく。
そのひとりの人間のうちにうずまく矛盾によってうまれる滑稽さと恐怖がごたまぜになって不協和音が鳴り響く159分はほんとうに圧巻です。
輝かしい経歴をもち、だれもが音楽の申し子として認めるリディアが権力に溺れることで招いた破滅の物語は、いま世界で起こっているキャンセルカルチャーと切っても切り離せません。
この物語になにを感じるのか、ラストをどう解釈するのか。
自分自身に答えを出すように迫られるような傑作。
音響設計や撮影もあいまって、濃密な映画体験となるはずです。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
5/12(金)公開
『TAR ター』
(原題)Tár
2022/米/159分
監 督:トッド・フィールド
出 演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス
© 2022 FOCUS FEATURES LLC.
【上映スケジュール】
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