「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
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私だけ聴こえる
音のない世界と聴こえる世界のあいだで居場所を探す。
本年度アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3冠を獲得した『コーダ あいのうた』。
フランス映画『エール!』のリメイクで、ろうの家族のなかで唯一の健聴者として生まれ、家族の通訳係の役割を担ってきた高校生の主人公が、歌手になるという夢を追う物語でした。
この映画が注目されたことによって“CODA=コーダ”という言葉を知ったという方も多いのではないでしょうか。
“CODA”とは、“Children of Deaf Adult”の頭文字をとった言葉で、聴こえない親に育てられた聴こえる子どもをさします。
今回紹介する『私だけ聴こえる』は、“コーダ”という言葉がうまれたアメリカを舞台に、聴こえない世界と聴こえる世界のはざまで特有の生きづらさを抱えながら葛藤し生きるコーダの姿を追ったドキュメンタリーです。
家では手話、外では声で話すコーダたちは、学校に行けば“障害者の子”扱い、ろうからは“耳が聞こえるから”と距離を置かれる。
コーダを追った初のドキュメンタリーとなる今作は、多感な時期を過ごす15歳のコーダたち―5代続くろうの家族に生まれたナイラ、大学進学を機に母親との関係を見つめ直すジェシカ、ろう文化の中では自由で幸福な自分でいられることで自己嫌悪するMJを中心に、居場所を失い、揺らぎながらも自らのことばで語りはじめる子どもたちのすがたを描いていく。
「ずっとろうになりたかった」というナイラのことばが重たく響きます。
このことばをいわせてしまったのは、誰なのか。
いったいどれだけの痛みをともなったことばをぶつけられれば、と。
自分の想像の範囲をこえた孤独に戸惑ってしまう。
そのうえで、彼女たちがときに言葉を詰まらせながらも、自分の物語を物語ろうとするその過程―他者が押し付けたイメージ、価値観によって居場所を奪われ、「わたしは誰なのか」と自問する姿などには、健聴者の世界の醜さが自然と映り込んでくるようです。
映画を観ながらわかるとわからないのあいだを何度も行き来し揺さぶられながら、彼女たちのことを分かりきれないわびしさを抱え、それをただ受け止める。あなたとわたし、この距離感で撮られたこの映画が終わるころにはきっと世界が新しく見えるはずです。
執筆:川添結生氏(京都シネマ)
7/15(金)公開
『私だけ聴こえる』
2022/日/76分
監督:松井至
©TEMJIN/RITORNELLO FILMS
【上映スケジュール】
7月 15日-21日 12:20~
7月22日-28日 16:00~
※7/28終映予定
京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
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