【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 67】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「カモン カモン」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 67】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「カモン カモン」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
4月のオススメ作品はこちら!

 カモン カモン

戸惑いと衝突、想定外から生まれた奇跡のような甥っ子との共同生活。

映画監督のみならず、脚本家、またはグラフィック・デザイナーなど、90年代からカルチャーをけん引してきたマルチ・アーティストのマイク・ミルズ。
彼は、長編映画監督デビュー作である青春映画『サムサッカー』から『20センチュリー・ウーマン』までとても私的でありながら、洗練されていてとてもあたたかい映画を作ってきました。
それは最新作『カモン カモン』も例外ではありません。
自身の子育ての経験をもとに、叔父と甥っ子の奇妙でいて、奇跡のような共同生活を描きます。

ニューヨーク。気ままなシングルライフを送り、米国各地を飛び回りながらラジオジャーナリストとして活躍するジョニーは、妹ヴィヴから頼まれて9歳の甥ジェシーの面倒を数日間見ることになり、ロサンゼルスへ。
とても賢く風変りなジェシーは、共同生活の初日からジョニーの頭を悩ませることになります。
その一方で、ジョニーの仕事道具である録音機材に興味を示し、ふたりは距離を縮めていきます…。

描かれるのは、ほんとうに取りとめのない日常の風景。
ベッドのなかや散歩途中の会話、絵本を読んであげることやベッドの上ではじまるプロレスごっこ、ジェシーがふいに目の前から消えたときに抱くジョニーの不安な心、そして憤り…。
この映画がすばらしいのは、大人が子どもになにかを教えるのではなく、子どもを通して大人が新しい世界を知っていくという点です。
ジョニーが子どもたちへ行うインタビューシーンやジェシーの行動は、子どもたちがいかに物事を考え、未来を見、大人と変わらないように、希望、喜び、恐れや悲しみを感じているのかということを気づかせてくれます。
他者との繋がりを切望しながらも「分からない」と「分かる」のあいだを揺らめくことで他者を見出そうとするミルズの姿勢が、もっとも現れた映画ではないでしょうか。
とても切実で美しい映画です。
ジョニーはジェシーのすべては分からないし、奇妙で奇跡みたいな日々をいつかジェシーは忘れてしまうかもしれないけど、でもここで絆が生まれ、親密さを感じ、煌めいた一瞬はうそではないこと、ただそれだけがとても大切なことなのかもしれません。

ジョニーがジェシーと関係を築いていくなかで、ジェシーや子どもたちの声に耳を傾けようとする真摯な姿勢をホアキン・フェニックスは誠実に演じています。
(ここに『20センチュリー・ウーマン』のアネット・ベニングの姿を見出してしまいます)
そのホアキン演じるジョニーの姿勢に、ミルズが両親や周囲の人々から受け取ったものが引き継がれ、分からないことも含めてただ声を聴こうとする。
だから彼の映画はとても優しく、そして親密さにあふれるのです。

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



4/22(金)公開
『カモン カモン』
(原題)C’mon C’mon/2021/米/108分
監督:マイク・ミルズ
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト

配給:ハピネットファントム・スタジオ © 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved. 

※上映スケジュールは京都シネマHPにてご確認ください


京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
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