「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
3月のオススメ作品はこちら！

 ベルファスト

監督の幼少期を投影したパーソナルな作品でいて、泣き笑いの人生賛歌。

たったひとりの最もパーソナルな記憶がときに宇宙をつめこんだような壮大なドラマになることがある。
そこに詰めこまれた人生に、ぎゅっと胸をつかまれるような経験。
そもそも映画は生まれてからずっと、人生の煌めく一瞬を、胸を苛む悲しみや焦燥、そして衝動をフィルムに焼き付けてきました。
ケネス・ブラナーが50年もの歳月を経て映画に焼き付けた『ベルファスト』は、きわめてパーソナルな記憶によって、壮大な町の記憶を保存したといえる一作。
幸せな瞬間も、苦いトラウマもすべてが詰めこまれた宝箱のような作品です。
第94回アカデミー賞では、作品賞、監督賞をふくむ計7部門にノミネート。アカデミー賞の結果が楽しみです。

北アイルランドの都市・ベルファスト。
ここで暮らす9歳の少年バディは、大好きな家族と友
だちに囲まれ、毎日を楽しく過ごしています。ロンドンへ出稼ぎに出ている父が帰ると映画館へ行き、家の前の道ばたでは、住民たちといっしょにダンスを踊る。
教会へ行くのは少し苦手で、映画の時間がもう少し増えればいいなと思っています。
しかし、いつまでも続くと思っていた日常は、1969年8月15日、突如打ち砕かれることに。プロテスタントの暴徒がカトリック住民への攻撃をはじめ、まるで町自体が大きな家族のようだったベルファストは分断されて…。

60年代末は、混沌の時代への突入でした。
プロテスタントとカトリックが反目し、1998年の和平合意に至るまで長く続いた北アイルランド紛争の始まりです。
本作は、紛争によって亡くなったひと、町を出ていかざるを得なかったひと、そしてなおこの町にとどまったひとへの追悼の映画でもあり、紛争の前、たのしく過ごしていたベルファストという町への挽歌でもあります。
9歳の少年の目線を通して描くベルファストは、正しい歴史観からはすこし離れたところにあるのかもしれません。
しかし、過去のトラウマを自ら描き直し、幸福なことと辛いことをいっしょに語るこの映画は、移り行く時代を前にあらゆる選択をした人々をパワフルに肯定します。
変化が押し寄せる現在に生きるわたしたちの生もまた、この映画はパワフルに肯定してくれる。
優しさとエネルギーに満ちた一作です。

執筆：川添結生氏（京都シネマ）

3/25(金)公開
『ベルファスト』
（原題）Belfast/2021/英/98分
監督：ケネス・ブラナー
出演：カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル
©︎2021 Focus Features, LLC.

＜上映スケジュール＞
3/25-31　11:40～、13:35～、15:30～、19:30～
4/1-7　11:20～、15:15～、19:35～

※以降の上映スケジュールは京都シネマHPにてご確認ください

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