【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 38】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「この世界に残されて」

【ことしるべおでかけクラブ スタッフおススメスポットvol. 38】京都シネマSTAFFの今月のオススメ「この世界に残されて」

「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
1月のオススメ作品はこちら!


ハンガリーの20世紀前半を叙情豊かに切り取った痛いほど優しい物語。

ホロコーストについての映画は、過去にも多くの作品が作られてきました。
そして、これからも作り続けられていくでしょう。
しかし、ホロコーストによって、愛する者を喪った人々のその後を切り取った映画は多くはありません。
今回紹介する『この世界に残されて』は、約56万人のユダヤ人が犠牲になったとされる終戦後のハンガリーを舞台にした“残された”人々の物語です。

1948年、ハンガリー。
ホロコーストを生き延びたものの、家族を喪い孤独の身となった16歳のクララは、大叔母オルガにも心を開かず、孤独な日々を送っています。
そんなある日、彼女は寡黙な医師アルドに出会います。
少し言葉を交わしただけのふたりでしたが、クララはアルドのなかに同じような孤独を感じ取り、父のように慕いはじめます。
そんな彼女を見て、オルギはクララのもう一人の保護者になってほしいとアルドに懇願し、奇妙な共同生活が始まりますが…。

少女クララを演じた、映画初主演となるアビゲール・セーケの透き通るようなまなざしの、その瞳の奥には悲しみと怒りを感じます。
トーマス・マンを原語のドイツ語で読むほど聡明な彼女が、ひたすら饒舌に世界を語り、身の回りの事物を非難する姿は、彼女が必死で世界と戦い、悲しみに飲み込まれないように踏ん張っているよう。
一方、静かな佇まいをした医師アルドを演じたカーロイ・ハイデュクの演技は、まくし立てるように話すクララの傍らで、寡黙ながらもふとした仕草やまなざしに深い思いやりを感じさせる繊細なものです。
主演ふたりの演技が、物語に深みを持たせています。
映画のなかでは、はっきりと歴史には触れませんが、1948年のハンガリーというと社会主義国になる前夜。
人々の生活が再び静かに脅かされていく、そんな日々のなかで、悲しい過去と孤独を背負い、絶望を抱えたふたりの人間が、自然と惹かれあい、互いを労りあい、寄り添いあう。
そこには、カテゴライズされたことばは当てはまらないでしょう。
歴史的なことや、ふたりの過去の部分の多くを語らないこの映画は、だからこそ繊細で切なさが残ります。
じわじわと胸に染み入ってくる、そんな映画です。

 

執筆:川添結生氏(京都シネマ)



この世界に残されて  
(原題)Akik Maradtak
1/2(土)公開 
2019/ハンガリー/88分
監督:バルナバーシュ・トート
出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー
©Inforg M&M Film 2019 

【上映スケジュール】
1/2~7 11:35~、15:40~、19:35~ 
1/8~14 11:40~、15:25~ 
1/15~21 18:00~

 


京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。
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